そのアリスは非情に非常な憂鬱

 暗い——長い長い廊下、その向こうから薄ぼんやりとした灯りがもれている。

 ボクは泥だらけの足で必死に走った。


「お母さん、お母さん……」


 遠く見える灯りに向かって呼び続ける。だけどもボクの体は一向に前に進んでくれる気配がない。



 『ドンッ!』


 場面が変わり辺りが明転した。息が、苦しい、体が重い、何かが全力でボクの首を絞めている。


「お前なんか、お前なんか―――――――……」


 耳元で叫び声が途切れる、頭がガンガンする。涙が溢れて……空気が、吸えない、肺がつぶれてしまいそうだ……。


「どうして? どうして? 何でボクだけ……?」


 ゆっくりと景色が後ずさりしていく。暗い意識のそこに。



 

「うわぁぁぁぁぁぁ!」



 天井へ向けて手を伸ばした格好で、ボクは目覚めた。

 ……あぁ、またこの夢だ。




『人生の中で、忘れたい事、またはこれから起こりそうな不安な出来事をすべて回避できるとしたら?』

 ……アナタは何を選びますか?



 

 夢って何ですか? あなたの夢はなんですか?


 そう問いかけられて、すぐに答えられる人間がどれだけ存在するのだろう?


 あんなこといいな、できたらいいな♪ なんて、何でもかんでも空想するお年頃なんてとうに過ぎてしまった。目の前にあるのは就職率何%という大きな張り紙と、バツの印だけが増えていくカレンダー。それに疲れきった同じ年代、同じ学歴で同じ学年に通う疲れ切った若者の表情だけだ。


 学生生活なんてものは、昔憧れた大人っぽいお兄さんお姉さんとは全く違って、現実を突きつけられてダラけて見せた方が若干格好良いと勘違いしている輩が大半を占めている。


 早く大人になりたい? それとも子供のままが良い?


 そんなナントカ症候群のような事を言ったって一日一日時間は過ぎていく。なのに、現実を見たくないボクらの世代はその話題についつい意識を持っていきがちだ。

 何歳で結婚するんだーとか、少年法があるから何歳のままがいいーとか。そんな夢見がちなことを言ったって不明瞭すぎるのに。 


 ボク? 残念ながらボクはそのどちらも望んでいない。


 夢を見るにはもう十分擦れていて、現実を見るにはまだまだ子供過ぎて。

 この世には、〝不純物〟が多すぎる。


 無邪気な心は時間と共に劣化していって、ある日を境にポッカリと居なくなってしまう。


 あーぁ。年なんて、とらなくていいのに。いつまでも、何も知らずに。せめておとぎ話の中のように、バカみたいに笑っていられればいいのに。


 理解したくもないモノが多すぎて、ボクは。


 〝ボク自身〟が不要だ——。

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ネヴァー・ネザー・エヴァーランドと刻ウサギ すきま讚魚 @Schwalbe343

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