茨木童子はどこへ?俺、保護者でも何でもないから分かるわけねぇだろ。てか、先に手離したのお前なんだからお前が一人で探せ、この野郎。

「早速だが、お前達に頼みたいことがある」


 酒呑童子が部下達と大江山の中の拠点へと入り、畳の上に座る。空気が変わった音がした。

「先程そこの小僧が仰っていた茨木童子のことですね」

「ああ、あいつに謝りたいことがある。直接謝罪したいんだ。頼む」

 そこで酒呑童子が部下達に頭を下げた。これまでの行いの反省といったところか。

「臣下達に詫びなくても、良いんじゃないの?」

「…これは俺のけじめだ。やらせてくれ」

 伊吹は何か言いたげだったが、やがて息を吐き、わかったと諦めのようなものをこぼした。

「王の頼みなら断りませんから。茨木童子でしょ?他の奴等にも聞いて回ります」

「俺らも出来る限り頑張ります」

 良い臣下を持ったなと伊吹は笑った。





 酒呑童子に鬼達が料理を振る舞っている間、伊吹は使いの狐のような生き物に文を託した。それを口元に咥えた狐は、顎下を撫でられ、嬉しそうに伊吹の手に擦り寄る。


「これを彼奴等の元へお願いな」


 きゅうと、返し、狐は白い体を翻していく。


「まぁ、これくらいならあの野郎共も何も言わないか」






 庭で木刀を振り、汗をかいているときつねのような白い物体がやって来た。これは伊吹も懐けている生き物。きゅうという名だ。


 口に咥えていた文を取り、きゅうの頭を撫でると、嬉しそうに喉を鳴らしている。


「また無茶してるなぁ。今度は鬼だって。何々……?」


 "平安の世に酒呑童子の拠点を襲撃した武士達と、茨木童子が現在どこへいるのかを調べて欲しい。俺の予想ではおそらくは摂津のどこかしらにいると

思います。容姿は文献にも載っているように、桜色です。ついでに、俺の近況は鬼の王酒呑童子に依頼されて茨木童子の捜索をしています。金に目が眩んだとかじゃないですからね。調べてくれた謝礼は、一月昼餉奢ります"


「こりゃまた大層なお願いで」


 遥か昔の武士達だ。鬼の容姿も変わっているのかもしれない。情報も手に入れるのは難しくは無い。けれど、その情報が真実か偽りかどうかで伊吹が鬼から受けた依頼の結末は変わってくる。徹底的に調べなければならない。


 伊吹からの信頼を、世間からの信頼を裏切りたくはないのだ。


「……面倒だな」


 ふとこぼしてしまった。なに、そこまで難しい情報を集めるのが、だ。隠された史実を、一武士が調べ上げることが果たして出来るのか。


「あれ、どうした。そんなとこで突っ立って」


 ……救世主だ。誰かが様子を見に来たらしい。沖田はペラペラと文を見せつける。


「伊吹からまたお願い事が来たんですけど面倒なんですよね。酒呑童子の拠点を襲撃した武士達と茨木童子という名の鬼の行方を調べて欲しいと……」


 上司も苦笑いを浮かべている。彼も以前、無茶振りという名の助力をし相当気を揉んだからだ。


「そりゃまた大変だな。よし、俺も手伝ってやるよ。情報収集は得意だからな」


「本当ですかぁ? 永倉さん」 


 長い髪を一つに無造作に結んだ男、永倉新八は後輩、沖田総司の背中を叩いた。


「んなこと言うなって!俺に掛かればお茶の子さいさいだわ」


 永倉は、多摩にいた頃と変わらない、子供のような無邪気な笑顔をする。


「やけに自信満々なのが苛つくんですが。まぁ、収穫無かったら甘味奢ってくださいよ」


「任せとけって!近くに餡蜜が上手い上等な甘味処があるんだ!」


 本当、こういうところが憎めない。彼は絶対にやれるから嫌味はいえない。


「あ、というか近藤さんや土方さんに内緒でやっとかないと俺達いろいろと後で危うくなりますよ?」


 勿論伊吹もだが。あの新選組の頭領達の説教は長い。以前、へまをして身をもって知っているのである。思い出すだけで、心をすり減らしそうだ。


「あー、まぁそうだな。俺も彼奴等に叱られるのは本気で嫌だわ」


 永倉も苦い顔をしている。剣は強いといえども人間的には彼等には勝てないらしい。


「じゃあ悟られないようにしましょう。後々怪しまれると視線とか鬱陶しいんで」


 京を守る狗だからか観察眼が鋭い。ゆえに永倉も賛成した。





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妖護屋 雛倉弥生 @Yuzuha331

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