第49話 悪魔の祝福
「ケイさんのおかげで今回はかなり楽です」
「うん。楽」
バッタを殲滅して、世界中を飛び回っている途中。
なにか分からないが、二人に感謝された。
聞いてみると、彼女たちは三千年前もこのアバドンを始末したそうだ。
だが、その時は、小さな群れや群れからはぐれた個体を自分たちで地道に探さなければならなかったので、物凄く大変だっただという。こちらの群れを殲滅しているうちに、以前殲滅したはずの群れが復活したりして、二、三か月あちらこちらを飛び回ってようやく殲滅しきったのだそうだ。
うん。それは大変だ。
しかし、アバドンの群れのほとんどを始末したのはレトちゃんだし、トラちゃんはバエルからもらったものだ。それに、トラちゃんの改良もバエルが手伝ってくれた。だからオレは大したことはしていないのだが……。
「自分で大したことないと思っていても、それが他の人にはとってもありがたいことがある。……そういうのが大事」
レトちゃんはそんなことを言う。バエルもレトちゃんの隣でうんうんと頷いている。あまり実感がわかないが、二人の役に立てたのならうれしい。
そういえばレトちゃんには以前も同じことを言われたことがあった。
オレも二人の親切にはずいぶん助けてもらったし、今でも助けてもらっている。彼女たちにしたら大したことないのかもしれないが、オレには本当にありがたいことだ。
レトちゃんの言う通り大事なことなのだろう。
***
あの古城に居た男は争いを引き起こそうとしていると言っていた。
まさに悪魔だ。世界中の人間が、バッタの大群はあの悪魔のような男のせいだと考えた。
世界中に現れたバッタの大群を目の当たりにして、人間たちは世界の終わりを覚悟した。
だが、一転して、バッタの大群はいきなり消えた。
凄まじい風と共に一瞬で吹き飛ばされたのを目撃した者もいたし、黒い靄とともに消え去ったのを目撃した者もいた。
古城に居たあの悪魔のような男もいつの間にかどこかに消えていた。
***
人間たちからすれば、奇跡のような出来事だった。
それでも、バッタの大群が人間たちの食糧に与えた影響は少なくなかった。
食糧不足や食糧価格の高騰が引き起こされたし、紛争やクーデターは起きてしまった。
それでも、いくつもの国を巻き込む大戦も国家間の戦争も起きなかった。
共通の敵を前に人間たちが結束したからか、それとも恐怖と奇跡を直に感じて自分たちのことを見つめなおしたからか、争いはすぐに収束したし、より大きな争いに発展することもなかった。官民問わず国際的な協力も滞らなかったし、本当に困窮している者の下へ支援が届けられた。
それでも、少なからず、火事場泥棒みたいなやつらもいたし、他人の弱みに付け込んで利益を貪ろうとする連中もいた。
歯がゆいが、排除しても後から後から湧いてくるのでキリがない。まあそういうもの含めて人間だ。
そういう連中のことは諦めるしかない。
人間たちが自分たちの力で問題を解決することが重要なのだ。
だから、私たちは支援のための少しばかりの資金を援助したくらいで、他には特に手出しをすることもなく見守っていた。
そうして、私たちがルシフを葬り去ってからだいたい一年が経った。
ケイは先日、無事悪魔になれた。悪魔になれたと言っても、スペックが追い付いただけで、中身は全然追い付いていない。だから、私とのお勉強も、レトちゃんとの鍛錬も続いている。
ケイが無事、悪魔になれたので、お祝いをすることにした。何しろ三千年間で初めての悪魔の誕生だ。三千年前、私たちの誕生はもろわれたものと鳴っってしまったが、今回はそうでもなさそうだ。
悪魔の雑草もアバドンもすでに過去のものだ。
結局、私たちは特に手出しをせずに済んだ。
偶然が重なったとはいえ、人間たちがこれほど結束したことは初めてだった。今後いつまで結束が保たれるかも分からないし、どこまで結束が広がるかも分からない。
しかし、たまにはこういうことがあってもいいだろう。なにしろ、私たちは、これから先も何百年、何千年か分からないが同じことを続けていくのだから。
今は悪魔と呼ばれることになってしまった彼からの思いがけない祝福だ。
<おわり>
悪魔の祝福 之(ゆき) @ABLE67308V
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