第7話魔法をこめて完成!

『ユウジ、そうじゃなくて、剣の先を炎の真ん中に刺すイメージで…!!』


『いやだからそれするとあっついんだって!!!』


ポカポカと暖かい気分でまだ少し眠気の残る瞼を開けると、目の前で叫びながら剣を振り回す俺

…じゃなくて若かりし父さんと

手から火の渦をだして笑っているフォティアさん


…これって………?


(あの…、父さん…)


何度も見間違えそうになるほど自分にそっくりな男の横顔に話しかける


…が


『もう、2人とも真面目にやらないと!』


話しかけたつもりが、自分の口が全く別の言葉を放ったことに気づく


『ごめんねアイリス、ユウジがあんまり変な動きをするから面白くて』


『あちちちち!!!!アイリス!水!水!!』


2人は俺を見てアイリスと呼び笑ったり叫んだり…


(いや、俺は勇気…)


『…』


俺自身は喋ってるつもりでも体が口を開いていない


もしかして…アイリスさんの魔法って、過去の記憶をアイリスさん目線で擬似体験できる…ってことか?

もしそうだとしたら動いたり喋ったりしても過去に干渉できるわけないもんな…


喋っても動かない口や何もしてないのに動く体に戸惑いながら、魔法に身を任せる


俺…もといアイリスさんは足元に置いてあったバケツになみなみ入っていた水を躊躇なく父さんの体にぶっかけた


いやアイリスさん親しい人には結構豪快だな?


全身びしょ濡れの父さんが今度は寒い寒いと走り回り、アイリスさんとフォティアさんは顔を見合わせ笑い、父さんも笑いだした


3人とも、すごく楽しそうだ


青春の1ページとも言える光景を眺めていると、また視界が霧に覆われ、3秒もたたないうちに晴れると場面が変わる


目の前にはまた父さんとフォティアさん


『ほれ見ろ!元いた世界ではこういうの作るの得意だったんだぞ!』


『ユウジにもこんな才能があったとは…』


『どういう意味だティア』


少し大人びた父さんと、やっぱり見た目が変わらないフォティアさんが小突きあって笑っている

さっき見た光景よりも、時が経ってるのかもしれない


(…ん?父さんがフォティアさんに渡したのって…)


アイリスさんの目線が下がり自分の手をうつす。

どうやらアイリスさんにも同じものを渡していたようだ

両手で大切そうに握っているのは、明らかに俺が父さんに渡された《剣の形をしたネックレス》だった


(これほんとにこの世界の…!)




『この柄のところの窪みは?』


『ここはなーなんか石みたいなのはめたかったんだけど良いのがなくてさー』


俺の驚きの声は当たり前にスルーされ、会話は続行される



フォティアさんはまだ何も入っていない窪み部分をさすってふーんと呟いたあと


『ちょっと待ってて』


と恐らく魔法でシュッと姿を消した

瞬間移動を経験することはあっても移動した人を見るのは初めてだから、急に姿が見えなくなってビビった。魔法すげー…(本日2回目)


2人になった父さんとアイリスさんはお互い何も喋らず、なんとなくだけど気まずそうに感じる


さっきの記憶は仲良さそうだったけど何かあったのか?


『…アイリス、あのさ…』


そんなに長くない沈黙のあと、意を決したように父さんはアイリスさんを真っ直ぐ見つめた


『この間の…』


『人をこき使わないでくださいよまったく』


せっかく何があったのか聞けそうだったのに、結構早くフォティアさんがシュッと戻ってきた

なぜかエクダスを連れて


『どうしてエクダスが?』


それまで無言だったアイリスさんの口がようやく動いた


『聞いてよアイリス!急にエラド鉱山に連れてけって言われてさ!』


気持ちよく昼寝してたのに!とプリプリ文句を言うエクダスに笑顔でごめんごめんと謝るフォティアさん

俺が同じ対応したら殺されそうだな


『あの鉱山にしかないでしょ?こんな綺麗な石』


そういって開いて見せたフォティアさんの手には、日の光を反射してキラキラ輝く緑、赤、オレンジの小さな宝石が3つ


『よく今の一瞬で取ってこれたな…』


『ユウジ聞いて俺も探すの手伝わされたからね』



父さんとエクダスの会話を無視しながら剣の窪みに石をはめていくフォティアさん

はい。とわたされた完成した剣のネックレスに父さんは嬉しそうだ


『俺が作って、ティアがはめた石…』


父さんは呟いたあと、はっ!と何か閃いた顔をして3つのネックレスをまとめて俺にわたしてきた


『あとはアイリスが魔法をこめて完成!』


『え…』(え…)


俺の声とアイリスさんの声が重なる


『ふふ、ユウジって見た目に似合わずロマンチストだよね』


『俺もう帰って寝まーす』


視界から一瞬で消えるエクダス

アイリスさんは父さんとフォティアさんを交互に見てはわたされたネックレスを持つ手に力を込めたりゆるめたり、突然の提案になんだか緊張しているようだった


『ま、魔法って何を…』


困惑したアイリスさんを見る父さんとフォティアさんはすごく優しそうな顔をしていて

問いに答えていないのに、「どんな魔法でも受け入れるよ」と言われているような気分になる


…俺ですらそんな風に思えるんだから、アイリスさんもそう感じただろうな


そしてアイリスさんの目線が手元に下がり、今から魔法を込めるんだろうというタイミングでまた視界に霧がかかりだし場面が変わることを察した


(ちょ…もうちょっと待って…)


映画のクライマックスを見れずに終わっちゃうような失望感

あっという間に目の前が白に染まり、俺はモヤモヤと胸にしこりを残してわからなかったあの時間の先を考えた


アイリスさんは何の魔法を込めたんだろう…


この魔法が終わったら聞いてみよう

そう決めて俺は次の記憶を見るために霧が晴れるのを待った

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実は二度目の七光り 青野 @maple117

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