第6話また後でね

俺が密かにフォティア×アイリスを想像していると、トゥレラさんがフォティアさんと大事な話があるらしく

俺とアイリスさんで城下町をまわってきたらどうかと提案された

アイリスさんと2人?!と動揺している俺と、そうしましょう!とニコニコまぶしい笑顔のアイリスさんをエクダスが(酔いの激しい)魔法で城下町まで送ってくれた


「おぇえ…」


ギリギリ吐くまではいかなかったが、喉仏付近まで胃の内容物が込み上げているのを感じる

確実に回数増す毎に気持ち悪さが酷くなっている…


「あの子魔法が荒いから…大丈夫?」


全然平気そうなアイリスさんによしよしと背中をさすってもらえて一瞬エクダスに感謝したが


「魔法は感情に左右されるから、嫌いな相手だと吐き気がでたりするみたい」


…やっぱりエクダスお前は許さない


込み上げる不快感(と怒り)をなんとか落ち着かせ辺りを見渡すと、茶色いレンガが敷き詰められた地面に市場のように露店が立ち並ぶ賑やかな街並みが眼前に広がっていた

さっきまでいた静かな城内とは対称的な活気づいた街への一瞬の変化に思考を一生懸命追い付かせる

ほんとに魔法なんだな…

いちいち驚くのも疲れるから早く慣れたいと思うものの、やっぱり魔法を体感するとすげー…と感心する


俺がぽかんと呆けていると、すぐ横で果物を売っていたおじさんが首が吹っ飛ぶんじゃないかと思うくらいの二度見をかまし


「ゆ、ユウジじゃねぇかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


喉にスピーカー機能でもついてる?と錯覚するほどの大音量で父さんの名前を街中に知らしめた

完全に耳が死んだ


「え?ユウジ??」

「やだ!ユウジよ!」

「ユウジ帰ってきたー!!!」


スピーカーおじさんの一声で一気に周辺がざわざわと騒がしくなり、俺とアイリスさんはあっという間に耳の尖ったネライダ族の人たちに囲まれる

超人気アイドルになった気分だ!なんて悠長に考えているうちに「会いたかったぁぁ」と泣き出す人まで出てきて、じわじわと謎の罪悪感に苛まれる


ユウジじゃないって言いづれぇ……


よく考えなくても父さんはこの国を救った英雄なわけで、街の環境がよくなったのも父さんとフォティアさんのおかげなわけで、言ってしまえば父さんを知らない人なんてそうそういないわけで…


自分の父親の認知度に驚かされる

父さんって凄い人だったんだ…


そんな感動をよそに俺たちを囲む人の数は留まるところを知らずどんどん増えていき収拾がつかなくなってきていた

俺は背中に汗が伝うのを感じながら


「あの…っ!俺はユウジの…」


ありったけの勇気を振り絞り叫んだ途中

アイリスさんが俺の手をとり眩しすぎる笑顔を街の人たちに振り撒いた


「みんな、また後でね」


そう言い終わると、グニャリと俺の視界は歪み

騒々しかった話し声も人と人で圧迫された窮屈さもなくなり、景色は涼しい風が心地良い草原に変わっていた

どうやらこの世界にきて一番体験している『瞬間移動』をアイリスさんverで経験することができたようだ


「あ、アイリスさん、ちょ…!!!……あれ」


今度こそ吐く…!!!とせめて無様な姿をアイリスさんに見られないように背を向けたが、あの恐ろしい吐き気は全く襲ってこなかった


「私の魔法でも酔った?」


心配そうに後ろから覗き込むアイリスさんにいいえと頭を横にふる

嫌いな相手だと吐き気がでる というアイリスさんの言葉がフラッシュバックした

え、こんなに違うもん?俺相当エクダスに嫌われてるのな?

わかってはいたがこうも体感的に違いがあるものだとは思わなかった


「移動ばかりしてごめんね。ティアはきっとユウジがどれだけ凄い人なのか知らせたかったのよ」


街の人気者だったんだからと、アイリスさんは過去を懐かしむように目を細めて言った


確かに、さっきの一瞬でどれだけ父さんが街の人たちから慕われているのか理解した…さすがフォティアさん…策士だ


俺がハハ…と笑っていると、アイリスさんは急に俺の額に指をあてた


「エクダスは移動が得意なの」


近くなったアイリスさんの顔をもろに直視して顔が熱くなったのを感じる

恥ずかしいけど指をあてられていて反らすことができない


「みんなそれぞれ得意な魔法があって、私も移動はできるけどエクダスみたいに遠くには行けないの」


この草原も、さっきいたところから全然離れてないのよ

とアイリスさんが顔を横に向けた

目線の先を追うと、さっきまで俺たちがいた街であろう建物がそんなに離れてない距離に並んでいるのが見える


「私が得意な魔法…見せてあげるね」


アイリスさんが額にあてた指がじわーっと温かくなるのを感じる

おでこから霧がおりてきてるような不思議な感覚の後、強烈な眠気に襲われ俺は抵抗もせず瞼を閉じた

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る