第5話お姫様…?

なんで移動するのかも知らされないまま俺は大人しくエクダスの後ろをついて歩いていた

だだっ広い廊下に2人分の足音だけが響いている


…どうせ聞いても答えてくれなさそうだしなぁ…


しかもすぐ隣の部屋って言ってたわりに10メートルくらい歩かされてる気がするけど、この城?どんだけ広いんだ


隣の部屋のドアが見えてきたが、そこにたどり着くまで一度も振り返らず大股でズカズカ歩く不機嫌男の背中に、俺は色々聞くのを諦めた


「入るよ」


重厚そうなドアを3回ノックしてエクダスは部屋に入っていく

俺は小さくお邪魔しますと呟き恐る恐る部屋に足を踏み入れた

さっきまでいた部屋は気絶してる間に運ばれてたけど、改めてこんな大豪邸みたいな城の誰かもわからない人の部屋に入るのは結構緊張する

小学生の頃校長先生の部屋に入るのも緊張した覚えがあるけどそれの比じゃないな…


「あら、もうお熱は下がったのかしら?」


部屋に入るとショートヘアの女性がクスクス笑いながらソファーに座っていた

こ、この人なんというかすごく…露出度が高い…

服の系統はフォティアさんたちと同じなんだけど体のラインがはっきりわかるタイトなドレスに、胸の部分はバーンと開いたデザインで谷間が丸見えだ

彼女いない歴=年齢の俺にはまだ刺激が強く「ぁ、ぁはぃ」とじゃっかんどもりながら目を反らした

どこ見て話せばいいかわからん…いや顔なんだろうけど…男の悲しき性だよね…目線が下に落ちてっちゃうのは

俺がドキマギしだしたのをエクダスが気持ち悪そうに見ている。ごめん童貞なんだ。許して


「私はトゥレラ。…あなた本当にユウジそっくりね」


ねぇ?とトゥレラさんは後ろにいる誰かに声をかける

完全にトゥレラさんの色気に惑わされて…いや、影に隠れて見えなかったが、もう1人この部屋にいたみたいで俺はハっ!と背筋を伸ばす


「あの…俺は桜井 勇気と言いま…」


名前を聞いたのに自分は名乗らないのはどうかと思い、少し立ち位置をずらしてトゥレラさんともう1人に自己紹介しようとして俺は言葉を失った



トゥレラさんの後ろにいる女性のあまりの美しさに



「お、お姫様……?」


真顔で真剣にそう言えちゃうくらいに、その人は綺麗で


腰まである赤く長い髪は艶々していて

白くて、触らなくてもスベスベだとわかる肌に

長い睫から大きくて宝石みたいに綺麗な瞳が俺を見つめていた


まるで雨上がりに虹がかかって、見た誰もが綺麗だなって思っちゃうような

こんな美しい人を俺は見たことがなかった


「私はアイリスと言います」


お姫様なんかじゃないですよ。とアイリスさんは微笑んだ

アイリスさんを見た俺の反応は想定内なのかそれとも見慣れた光景なのか、トゥレラさんもエクダスも頬を赤く染めてアイリスさんから目が離せない俺をスルーして普通に会話している


「アイリスはユウジと仲良かったから余計懐かしいんじゃない?」

「…そうね。またユウジに会えたみたいでとっても嬉しい」


俺を見ながらそう言うアイリスさんに不整脈を起こす心臓をおさえようとぐぉお…と唸りながら胸をつかむ

エクダスが生ゴミでも見るかのような表情を向けながら俺から距離をとった


「…なぁアイリス、こいつってユウジと誰の子供だっけ」


唐突にエクダスが切り出した

わざわざアイリスさんに聞くのはアイリスさんが父さんと仲良かったからだろうか


ここに来てから俺の母親がネライダだという衝撃の事実が発覚したが、そうか、もしかしなくても会えるかもしれないのか


ドキドキと高鳴る鼓動をおさえながらアイリスさんを見つめていたが、アイリスさんは大きな目を細めてしばらく考え込んだ後


「ユウジと…ごめんなさい、誰だったかしら…」


思い出せないの…と悲しげにうつむいた


「ユウジは急に赤ん坊を連れてきたから誰も知らないよ」


俺の後ろのドアが開きいつから話を聞いていたのかフォティアさんが現れ答えた

この人はいつもタイミングよく出現するな


フォティアさんは俺に長く待たせたことを謝ると

そのままアイリスさんに近づき、アイリスさんの頬を手の甲で優しく撫でた

その瞬間、恋愛経験がないガキな俺でもピーンと勘が働く

もしかしてこの2人…


「アイリスは少し体調が悪かったけど…もう平気?」

「トゥレラが看病してくれたからもうすっかり元気よ。ありがとう」


とても仲睦まじく言葉を交わすフォティアさんとアイリスさんを見て俺はそういうことか…!と某探偵にでもなったかのように2人の関係を考察していた

こんなあからさまだったら探偵じゃなくてもわかるんだろうけど…


俺は推しのアイドルが結婚発表した時のような喪失勘に勝手に支配されたが


(…めっちゃ好きなんだろうなぁ)


愛おしげにアイリスさんを見つめるフォティアさんの表情を見てそんな気持ちも消え失せた

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