打ち放たれし神の鞭
我が亡き後に洪水よ来たれ
作戦報告書。提出者、フランク・”ジェリー”・フレイ飛行仕官。本報告書は、
第一に、作戦は終了した。作戦に参加した十九機のうち、帰還を果たしたものは十一機であった。参加した乗員133名のうち、作戦行動中に死亡した者が53名、捕虜となった者が3名であった。ガイ・ギブソンは生還し、既にビクトリア十字勲章を授与されている。
作戦の結果として、ルール地方上流のメーネ・ダムとエーダーゼー貯水湖のエーデル・ダムが決壊し、ドイツ側の総死者数は1249名を数えた。操業停止に陥った軍需工場の数は、125であった。
本官は作戦が決行されたその直後すなわち1943年5月17日の未明、偵察型スピットファイアに搭乗して発進、夜明け直後に現地を偵察し写真撮影を行った。そのときの様子について、以下に述懐する。
本官がメーネ・ダムまで150マイルの距離に到達すると、ルール地方に雲がかかっているような様子が見えた。しかし、接近してみるとそれは雲ではなく、洪水によって浸水した水面に、太陽光が反射している光景であった。本官はそれを視認した。本官はその三日前にも同地で偵察を行っていたため、比較することが可能であったが、まったく平和であったはずのルール峡谷は今や完全に奔流に飲み込まれ、湖沼のようになっていた。谷が水没し、わずかばかりの丘や、教会の尖塔などが見えているだけであった。その広大なる有様は、本官を圧倒し去るに足るものであった。
では、以下に遂行された作戦の実際について記述する。
第617飛行中隊19機は、その全機が特殊な改造を受けた四発戦略爆撃機ランカスターMk.Ⅲによって構成された。重量を限界まで削るために、投下する爆弾以外の装備は全て外された。時速約390㎞で飛行する爆撃機が、高度18メートルの低空から、それも夜間に、爆弾を投下するためには正確な高度を測定する手段がどうしても必要であったが、これは機首と胴体にスポットライトを設置して光を交差させ、18メートル直下を照らし出すことによって解決した。
作戦当日は折あしく好天となり、パイロットの生還を妨げる条件はさらに一つ増えた。しかし、計画は遂行された。
部隊はドイツ軍にレーダー探知されることを避けるため、かなり遠い距離から低空飛行を続けなければならず、さらにその上で高射砲も避ける必要があった。オランダ上空に到着した時点で、一部の機が高射砲による攻撃を受けた。また、飛行高度を下げ過ぎて爆弾を喪失した機もあった。原因不明の墜落を遂げた機も複数あった。
ギブソン中佐の機が最初にメーネ・ダムへと到達し、攻撃を加えた。しかし、これは成功しなかった。ギブソン機はその後も現場に留まり、部隊の指揮を執り続け、また別の機を庇うために囮になりさえもした。結局、ヤング少佐とマルトビー大尉の爆撃によって、メーネ・ダムは決壊に至った。作戦はついに成功したのである。
また、エーデル・ダムにも別の部隊が向かっていた。こちらはシャノン、ナイト両少尉の攻撃によってやはりダムの破壊が成功した。
部隊の帰還もまた、低空飛行によって行われた。メーネ・ダムの攻撃に成功したヤング少佐は、帰路において高射砲の攻撃を受け墜落。少佐とその乗員は戦死した。
なお、作戦終了の十日後、部隊の栄誉を讃えるためのバッヂが製作・配布された。その図案は、破壊されたダムの上に、フランス王ルイ15世の言葉として知られる、『我が亡き後に洪水よ来たれ』という文句が刻まれたものであった。部隊は今も存続しており、次の任務への投入が予定されている。
以上が、神の鞭作戦、オペレーション・チャスタイズの実施概要である。
神の鞭作戦発動せよ きょうじゅ @Fake_Proffesor
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