第4話

破砕したキャノピーが轟々と風きり音をあげる中で、キム某中佐は、後部座席に座る「ノ某大尉」に対して大声で


「生き残っちまったな…」と声を掛けた。



しかし返答はなかった。


はっとして振り返ると、後部座席で「ノ某大尉」の頭半分が消し飛んでいた。


-そうか、あのときか…


Jイーグルのパイロットの精緻な射撃によるものであろう…


いや、イーグルだったのか、心神だったのか、それとも他の機体だったのか…敵機は何機だったのか…



それすらも、キム某中佐にはわからなかった。



キムチイーグル1番機は、後部座席に息絶えたノ某大尉を乗せたままK国内の空軍基地に帰到した。


キャノピーを失い、幾箇所にも機銃掃射を浴びた機体であるにも関わらず、離陸時とは異なり、滑らかな着陸だった。


いまさらながら…だが、最後に納得の行くランディングが出来た…



ゆっくりを機体を格納庫に入れ、停止させた。



ノ某大尉には、反日で凝り固まった「ウリナラマンセー」夫人と日本製アニメとフィギュアに興じているオタク中学生の息子がいたと聞いている…


座席の中で、彼女達に何をどう伝えようかと考えていると、いきなり操縦席から轢きずりだされ、上官である基地司令・パク某准将の前に体を投げ出された。



もはや何も言うまい…いっても詮無いこと…



キム某空軍中佐は上官が何を喚いていたか耳に入っていなかった。


-キムチ臭い息のジジイだな…


虚ろな思考のなかで、ただそれだけを感じていた。



しかし最後に基地司令が「共産党中国製トカレフ」を彼に押し付けた意味は理解できた。



基地司令と保安要員は彼を残し、格納庫から出て行った



キム某中佐は、K国空軍最後のキムチイーグルに一瞥をくれ、諦めの表情を浮かべつつ「中国製トカレフ」の銃身をこめかみにあてた。



覚悟をして、ゆっくりと引き金をひいた… 



「ガキッ…」



弾詰まりだ…弾がでなかった…



「なんだよ、これ…」



自嘲の薄笑いを浮かべた彼は自らが失禁していることに初めて気づいて立ち尽くしていた。

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半島の落日 @ksasj-77-2011005

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