遺書と恋文
- ★★ Very Good!!
遺書を恋文(ラブレター)と表現する感性が素敵である。だが、これはささやかなロマンスであり、依然として闘病生活という過酷な試練が背景にあることは変わりない。明るいようでやはり暗いものが見え隠れする物語なのである。しかし、その暗い未来を跳ね除けるような活力を最後に見せる。生きるということはこの繰り返しなのかもしれない。
物語に起伏があり、明暗がハッキリしているのも魅力的である。塵積もる広い住宅の煤を払っていくうちに想いがけない発見をする、ということはよくある事だ。それを立派なロマンスに昇華させているところに惹かれた。
死ぬか生きるか、という問題に直面した人々を包む優しい言葉の数々。それは一時の潤いとなって読む人の胸を打つものがある。遺書という暗い印象を抱えがちな物を優しく懐かしい母の手紙にする、という手腕は素晴らしい。感動した。