【短編】異世界へ転生したら最強勇者になったけどスキあらば相棒の美少女魔道士が世界を滅ぼそうとして困るのだが【俺TUEEE】

猫海士ゲル

美少女魔道士に殺されかけて激怒な件

魔窟まくつの闇の住人どもよ、このブラッディソードの餌となることを希望するならば来い!」


俺、鈴木遊兎ゆうとは眼前に迫り来るゴブリンの群れに向かって警告を放つ。


砂塵さじん渦巻く大地の上に悪魔軍の悲惨な惨状。死屍類々ししるいるいの現状を前に「こいつには勝てない」と悟った悪魔王サタン眷属けんぞくゴブリンたちは、怯え、立ち竦む。もはや戦意は喪失していた。


深淵しんえんの魔王よ!」


俺の後ろで詠唱えいしょうが始まった。アリスだ。


「我が契約に従いアポカリプスに記載されし終焉しゅうえんをもたらす紅蓮ぐれん煉獄れんごくに……」


……いや、ちょっと待てアリス。おまえその詠唱は、


「生きとし生ける全ての者を……」


アリスが唱える魔法は「スーパーノヴァ」に間違いない。このまま、ここにいたら俺も巻添えをくう。


「アリスの名において命ずる、森羅万象しんらばんしょう全てを虚無へと帰せ!」


アリスが高く掲げる魔法のステッキ。


メタルタイトで作られた銀色のそれは、俺が元いた世界で吹奏楽部の連中が使っていたフルートを想起させる。


だが奏でられるものは音ではなく光。その先端から目映い輝きが放たれ、天高く昇っていった。


空は血の色より赤く染まり、雲は黄昏たそがれよりもくらくなる。


高見の見物を決め込んでいた鳥たちも狂ったように鳴き叫んでいる。


俺は慌てて砂の崖を駆け下りる、というか滑り落ちる。


と、ご都合主義にも洞窟を見つけて転がり込んだ。途端、凄まじい地鳴りと爆風が穴蔵へと迫り、死を覚悟した。




「おまえは、バカかあぁぁッ!」


命からがらギルドへ戻った俺と視線も合わさず「おや、ユウト。遅かったですねぇ」とばかりに、テーブルに並べられた豪華絢爛ごうかけんらんなご馳走をひとりで飲み食いしているアリス。


毎度食事のたびに思うが、このからだのどこにこれだけの量が収まっているんだろう。ほんと不思議な……って、いまはそれどころじゃない。


「そこへ立て! 立って俺の顔を見ろ!」


椅子から小柄なお尻を浮かせて立ち上がり、もじもじと幼い躰をくゆらせ、ぷっくりした柔らかそうな唇をムッと尖らせ、それでも上目遣いに反省の眼差しだけは向けてくる魔道服の少女。


「でも砂漠ですよ、砂漠。だーれも住んでない、さ・ば・く」


「俺は死にそうになった」


「えー、勇者さまが死ぬわけないでしょう。ユウト強いし、現にこうしてケガ一つなく戻って来たわけで」


「躰は頑丈に出来ているからな……って、そういうことじゃない」


「頭も良いし」


「そう学校でも成績は良かった……って、そういうことじゃない」


「学校? ユウトってどこの学校行ってたんです?」


「アリスの知らない、このユグドラシルの外の学校だよ」


「ふーん、ユウトが育った町の話。聞きたいな」




俺はほんの数ヶ月前までは日本の高校生だった。

と、偉そうに言えるほど高校へ通っていたわけじゃない。引き籠もりレベルまでは行かないが何かにつけて授業はサボっていた。


サボっても教科書に書いてあることくらい丸暗記出来たから試験の成績は良かった。


かつて流行はやっていた、いわゆる「不良漫画」に従えば屋上や体育館裏でたむろするのがセオリーだろうが、俺は不良じゃない。何よりも学校まで到着せず途中のゲーセンに入り浸っていた。駅前のネットカフェや図書館でも時間を潰した。そして夕方の下校時間に合わせて、何食わぬ顔で帰宅していた。




「あー、語るべき話がないなあ」


「友達との思い出とかは?」


「友達なんていなかったな」


「友達が……いなかったんですか。ボッチ?」


あ、ヤバい。こいつに、また弱味を握られる。


「俺は孤高の、唯一絶対の、強者だったからな。友達がいないというのは、ライバルはいなかったという意味だ。あ、遊び相手くらい、い、いたわい」


「どんな遊びを?」


「ネットゲー」


「……なんですか、それ」


「お、おまえ五月蠅いなあ。そんなことより、威力の強すぎる魔法は禁止だ、いいな」


「何言ってんですか。悪魔軍を大量に捌かないと『マルちゃんコイン』が入手出来ないでしょう。ユウトが、どーしても食べたいっていうから頑張っているのに」


そうなのだ。マルちゃんコイン。


どういう理屈か、このユグドラシルと呼ばれる世界には、あの「赤いきつね」と「緑のたぬき」がある。マルちゃんコインという特別な金貨100枚でいづれかのカップ麺が食える。


ほんと、どういう理屈なんだ、これ。


「ユウトが、これは力の源だって言うから」


「お、おう。そうだったな」




かつての世界で良く食った味。懐かしい味。青春の……と、言うほどの思い出はないが、それでも修学旅行のバスの車内『あの子』と偶然にも一緒に食った味。


それがマルちゃん「赤いきつね」と「緑のたぬき」


きつねがで、たぬきが。俺的にはどっちも好きだ。


「あー、食いたくなってきたあ」


「でしょう。ユウトの分ちゃんと用意してありますよ」


アリスがカップ麺を差し出す。「緑のたぬき」だ。


「ギルドマスターに頼んで、ちゃんとお湯も準備してもらいましたからね、わたしの勇者さま」


「よし、許す。ただし、今度からデカい魔法使うときは事前に……」


その時だった、ギルド内に警報が鳴り響く。


「至急、至急!」


ギルドマスターのお姉さんの声だ。


「悪魔軍が町へ大量に侵入しました。手のいている勇者は迎撃をお願いします。協力者には活躍に応じてマルちゃん金貨を給付します」


「なんだよ、これから飯だってときに」


「大丈夫ですよ、お湯を注ぐ前だから保存も効きます。さあさあ、マルちゃん金貨をゲットにいきましょう」


「うん、しゃあないな。残り分も心許こころもとないから悪魔軍を総ざらいでゲットするか」


俺は、俺たちは他の勇者に混じって外へ繰り出す。もちろん、アリスには「町中でスーパーノヴァ使うなよ、ぜったいだぞ、ぜったいだからな!」と念押ししておいた。


アリスは「もちろん、わかっていますって」と、目を輝かせながら、にんまり笑顔で頷いた。手にはしっかり魔法のステッキが握られている。


本当にわかっているのか?


とにかく、他の勇者には負けていられない。


「アリス、行くぞ!」


「はい、勇者さま!」


こうして、これからも俺たちの戦いはつづくのだった。




……一時間後。


「おまえは、やっぱりバカだぁぁぁぁッ!」


廃墟はいきょと化した町中で俺はアリスを叱責することになるのだが、どうやら紙面も尽きたようだ。これは、またの機会に。


おしまい♡

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