【完結】きみと見た空の色

最終話 きみと見たエピローグ

　彼はそこで本を閉じる。

　足音が迫ってくるのに気付いたからだ。

「白ちゃーん！　何読んでるの？」

　彼女が変わりなく飛びついてきて、自分に笑顔を向けるのを見て、またため息をつく。

「白ちゃん、放課後、お茶しない？」

　無邪気な彼女は大きな瞳を自分に向けてくる。彼は自分の鼓動の音が彼女に聞こえないように少し体をずらす。

「いつまでこんなこと、繰り返すつもりだ？」

　思わず呟いてしまう。

　これが、犯罪者に与えられた罰なのか？

　悔しくて、にぎった拳に力がこもる。

　いつまで、いつまで彼女にこの生活をさせる。

　一日一日を大切に生きていると笑う彼女に、こんなこと……

　聞こえてしまったのか、彼女の表情がくもったのがわかった。

　離れていくぬくもりに名残惜しさを感じる。でも、それでいいと思った。

　なにも返してあげられない自分のことなんて早く忘れてもっともっと笑ってくれればそれでいいと。

　だが、それは一瞬のこと。

　彼女はいつものようにすぐに新しい笑顔を作り直す。

　優しい子なんだ。自分の表情をちゃんと読みとって、それでいて近づいてきてくれる。

　だからこそ自分とは関わるべきではなかった。

　何か言いかけたようで、いつものように彼女は口を噤む。

　いつもいつもいつも、その繰り返しだ。

　これからの行動だって、全て嫌というほどわかっている。

　何度目になるかわからないこの光景は繰り返し、まるで操り人形のように、彼女はいつも同じ行動をとり続ける。

　白ちゃん白ちゃんと、何も知らない純粋な瞳に自分を映して。

「永遠に続けるわ」

「え……」

　ふと顔をあげると彼女がいた。

「白ちゃんの心に私の想いが通じるまで」

　いつもなら、ここで彼に背をむけたまま出ていくはずであろう彼女が、振り返ってまた、彼に笑いかけていた。

「も、桃倉……」

「だから、早く私を好きになってね」

　きっと彼女なら、未来を変えることができる。一歩一歩、その足で。

　そう思ったら、不覚にも涙がでそうになって、白夜は無意識に彼女を抱き寄せていた。

　信じようと思った。この希望を、また。