第11話 きみと見る未来の形
「小春、なにしてるの?」
職員室の前で、いつの間にか大きな絵に見入っていた私はお母さんの声にはっとした。
「ごめん、ぼんやりしてた」
「きれいな絵ね」
そういうお母さんも私と同じ方向に視線を向ける。
「あっという間だったわね」
「うん」
季節が流れ、私は今日この学校を卒業した。
長いようで短かった高校生活が終わる。
「でも意外。小春が文学部に行くなんて」
「そうだね」
私もまさか文学を好んで大学でまで勉強することを選ぶとは、自分でもいまだに信じられないくらいだった。
「物語が、書きたいの」
言いかけて、どうしてそんな風に思うようになったのだったかほんの少し自問自答する。
「小春がそんなに物語が好きなんて、知らなかったわ」
「わ、私もよ」
私もわからないの。
だけど……
「小春?」
この絵を見ていたら、なぜだかそう思わずにはいられなかった。
書きたいものがあるのだ。
なんだかわからないけど、そう思えてならないのだ。
この、赤く赤く染まる情熱的な絵を前にしていたら。
「なんでだろう……」
鼻の奥がつんと痛んで今にも泣いてしまいそうだった。
「何だか、懐かしいの」
なぜだかわからない。
受験やこれから先のこともいろんなことがうまくいって、本当に本当に幸せなのに。
だけど、どうしてだろう。赤々と燃えるように世界を照らす美しいこの絵の前で私は、前にも一度、もっともっと幸せだと思ったことがあるような気がした。
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