SFディストピアごはん事情「荒廃寸前の世界を救うために増えすぎた人類は美味しいごはんになってもらいます。これは統一政府の決定です」

すとらいふ

第1話

 ――――20XX年、世界は温暖化による気候変動、深刻な食糧と水不足、人口爆発、疫病の蔓延、陰謀論、転売ヤーによってそこはかとなく悪い方へしっちゃかめっちゃかになっていた!!!


「と、いうわけで先生……あなたにはこの計画を推進するべく、悪魔の研究を始めてもらいますよ。もちろん、拒否権など無い事はご存知ですよね?」


「くぅ……仕方ねーデス……これも人類が苦難の今日を生き延びる為……この超絶有能美人天才美少女才媛ティストたる私の灰色な頭脳を総動員せざるを得ない状況デスか……」


「実際は何かと理由つけて我々から多額の研究費を毟り取ってるからですけどね。投資分は研究成果を出してもらわないと……マジで困るんです。というか、いい加減に資金の使い途を明かしてくれませんかね? 使途不明金とか本当に勘弁してほしいんですが……」


「おっと突然やる気がモリモリ湧いてきたデス! いやぁ、研究が楽しみデス!」


「それでは吉報をお待ちしていますよ……フフフ」


「…………帰ったデス? やっと帰ったデス? けっ、一昨日来やがれデス!」


「先生……今日もプレバン戦争には勝利しました……代金はいつもどおり先生のカードリボ払いで支払っておきますね……それと今週からソシャゲのイベントが始まるのでまた課金お願いします……あと、今の人は……?」


「おっ、その声はなんかIQがすこぶる高くそれゆえ社会から除け者にされていた所を私が保護した儚げな印象と毒舌が魅力の引き篭もり系美少女助手! なに、統一政府の役人デス。まーた無理難題をこの私に押し付けて来やがったんデス!」


「無理難題……先生のところにはいつも無理難題しか舞い込んできませんね……前世では屏風から虎を出せとか言われませんでした……? それから悪魔の研究とも言っていましたが……いったい、何を……?」


「……今、世界はかつてない程の食糧不足デス。家畜はゲップから温室効果ガスが出るし動物愛護の観点からも全面的に禁止、野菜も過度な品質改良及び遺伝子操作は自然の摂理に反するので規制、海産物はエルニーニョだかラニーニャだかで記録的な不漁、小麦なんかの穀物も気候変動でろくに収穫出来ていないデス。それでいて、人口は今も増える一方……そこで統一政府はとある計画を立案しやがったんデス……」


「とある……計画ですか……?」


「増えすぎた人口を減らしつつ、食糧不足も解決する……つまり、人間を材料にした代替肉の開発デス……! しかも人肉と分からない上にめっちゃ美味しくて長持ち日持ちする奴をデスよ?!」


「そんな……! なんて愚かな……!」


「そうデス! 愚かにも程があるデスよ! 私はAIやロボット工学が専門であって、化学やら生物系、ついでに料理は全く分からないんデスよ!!! 作ろうにもどうやればいいかサッパリ分かんねーデス!!!」


「先生のお料理レベルはレタスとキャベツを間違えたり、ゆで卵を作ろうとして電子レンジはおろか、部屋ごと吹き飛ばすような次元ですからね……政府の役人さんというのは脳ミソがゆで卵なんでしょうか……?」


「政府の役人なんて、少し前の政治闘争や粛清の嵐でまともな人材なんて残ってないデスよ。せいぜい、『ぬ』と『ね』の違いが判別できるくらいデス。そしてこんな犬畜生にも劣る計画が立案実行されたとあらば、いよいよあの『計画プロジェクト』が政府内で極秘に実行されたようデスね……!」


「あの『計画プロジェクト』……? いきなり計画と書いてプロジェクトというルビ振ったり、二重鉤括弧とか使わないでください……厨二臭い……」


「こういうのは雰囲気から作らないとダメなんデスよ。それでは気を取り直して……あの『計画プロジェクト』とは、しっちゃかめっちゃかな世界を統一政府が完全支配する為に、人智を超えたスーパーAIスカイ○ットみたいなやつに人類を管理させようという計画デス……! ぶっちゃけナンカスゴイAIに政治家と官僚の仕事丸投げしようって計画デスね、まさに給料泥棒デス」


「そんな恐ろしい陰謀が……でも先生、どこのツ○ッターにもそんな情報は書いてありませんよ……? 陰謀論を探すならツ○ッターかフェ○スブックが鉄板……」


「いやだって少し前にそういうAI欲しいって統一政府から言われて面白そうだからサクッと作っといたデス。あいあむ製作者」


「流石は先生……研究者の倫理とかガン無視ですね……。さて、話を人肉に戻しましょう……まず前提として……人間なんて食べて美味しいのでしょうか……? ゴミのような価値しかない人間はゴミの味しかしなさそうですが……」


「美味しいかどうかはレクター博士じゃないから知らねーデス。よく雑食性の人類は肉が臭いという話はあるデスけど。そもそも人間と家畜を比較した場合、圧倒的に可食部が少なすぎるデスねー。体重辺りで牛は三割、豚は四割、鶏に至ってはなんと五割前後の肉が取れるという話デス。人間で例えるなら、ムキムキマッチョの変態くらいじゃないと採算合わないデス」


「しかも、牛や豚は数年で成長しますが……人間というのは成長するのに時間がかかります……本当にノロマで使えませんね……」


「仮に人肉加工食が開発できたとしても、数年も経てば材料が無くなっちゃうデスねー。こういう材料に選ばれるような人間は決まって重大な犯罪者や社会不適合者デス」


「先生のような……?」


「お、辛辣ゥデス! 明るみになっていなければそれは犯罪じゃないデス! とにかく、そういうアレな人間たちは総数からすればほんのごく少数、そのうち軽犯罪者も材料にされ、それもいなくなれば次はコミュニティからのはみ出しもの、ムカつく奴、気に入らない奴がどんどん生贄にされるだけデス。それでいて人間の生まれてから食べられる程度に成長するまでのサイクルは十数年……ま、計算するまでもなく材料が枯渇するデスね!」


「文字通り生贄にした方が世のため私の為……」


「おぉーい、先生さんやー」


「お、その声はAIに仕事を奪われ廃業せざるをえず、あまつさえ棄民政策で住む所がなくなって困っていた所を私が欲しかった労働力として極秘裏に匿っている作業員! いったいどうしたデスか?」


「いんや、この前言ってた牛っこのやつがよう、産気づいたんだぁ。それで産まれる仔っこの分を含めた今後の飼料配分と生産ペースの調整をしようと思ってよぅ」


「うーむ。畜産禁止の煽りを受けて殺処分される寸前だった大量の牛や豚、鶏を引き取り、助手が特別に遺伝子改良した栄養たっぷり、痩せた土地でもガンガン育つ大豆や麦なんかの餌で生きながらえているデスが、……こんなに数が増えすぎちゃうとこのままではいつか破綻するデスねぇ」


「そうだ……先生、その遺伝子魔改造大豆を使って代替肉を作ってみてはいかがでしょう……? どうせ役人には人間の肉と大豆で出来た代替肉の違いなんて分かりっこありませんよ……だって本物のお肉なんて食べたことがない貧乏舌でしょうし……」


「ほうほう、助手は私に引き取られてからずっと生物学や栄養学の勉強をするか、もしくはアマ○ラやネッ○フリックス見てるかのどっちかだったデスし、いっちょ任せてみるデスか!」


「こうなることを見越して……すでに試作品をいくつか作っておきました……こちらをどうぞ……」


「仕事が早いデス! もきゅもきゅ……ほうほう、これはなかなか……」


「すみません……今だしたお皿のは動物愛護の観点から愛玩動物の飼育が禁止され行き場を失ったペットショップから引き取ったワンちゃんネコちゃんにあげるエサでした……人間用のエサはこちらです……」


「ぶーっ!デス! あ、でも結構イケる味付けだったデス」


「大豆のたんぱく質を抽出、精製……それに各種栄養素と風味の基となると考えられるヘモグロビン類縁体などを加えペースト状に加工、さらに3Dプリンター技術を応用し、肉の脂身と繊維質を再現してみました……どうぞ、鶏のレバ刺し(大豆由来)です……」


「えっ……普通、試作品でこういうの作る時ってもっと無難な部位でやらないデスか……? モモ肉とか……いやまぁ食べるデスけど、というかこれって肉というかモツ系……むぐむぐ、なるほどデス。この完成度なら役人どもを上手くだまくらかす事が出来るデス!」




~数日後~




「うーん、大豆肉を人肉と偽って提出したらめっちゃ絶賛されてしまったデス。計画も国民には秘密裏に推進され、今では助手が開発した人肉生産プラントという名前の大豆こねこねプラントが昼夜を問わずフル操業中デス。羊頭狗肉って言葉、こういうときにも使えるんデスかね?」


「先生……困ったことがおきました……。人肉の材料として送られてきた愚かな人類共の保管部屋がもう一杯です……毎日トラック一杯に送られてきますし……エサのおから大豆の絞りカスも飽きたと苦情が……」


「むむむ。既に大量の作業員と家畜とワンちゃんネコちゃんで私達のアジトは表も裏も、地上も地下も溢れかえる寸前デス。上手いこと元材料の人間たちをどうにかしないと政府に人間由来の肉を作っていないことがバレちまうデス! あとご飯はおからと卯の花を交互に出してやれデス」


「ぴーがが(おい先生)」


「お、その声……というか駆動音は私が開発した自己進化・自己再生・自己修復機能を持ち、家事炊事にトイレ掃除まで完璧にこなせるスーパーAI搭載アンドロイド!」


「ぴーがが(前に頼まれていた新開発の巨大人型機動兵器のテストが終わったぜ。……ったく、こんなことオレの仕事じゃねぇっての)」


「うーむ、私がお願いしたのは巨大ロボットで縦横無尽に暴れまわれる系のオープンワールドなゲーム開発だったはずなんデスが……いやまてデス。これはチャンスかもしれないデス!」




 こうして大量の作業員と政府からちょろまかした資金を使い人型機動兵器を大量生産し、ご飯は大豆由来ではなく本物の肉を食べて元気いっぱいの兵士(元人肉材料)がワンちゃんネコちゃんたちから癒やしを貰って統一政府とマザーコンピュータを一瞬で倒した。その立役者たる先生はその後、末永く世界中で崇め奉られるのだった。


 ――完――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

SFディストピアごはん事情「荒廃寸前の世界を救うために増えすぎた人類は美味しいごはんになってもらいます。これは統一政府の決定です」 すとらいふ @strife

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ