11
靴箱で芽衣を待つことにした。他のクラスはとっくに下校しているから周りには誰もいなかった。金城先生のことで自分があんなにも熱くなるなんて意外だった。本当に金城先生のことが好きなんだな、私は。そう思うと少し嬉しくなった。そんな気持ちで芽衣を待ってると5分くらいして芽衣が来た。
「ごめん。待った?」
「いや、ほんの5分くらいよ」
名前順の区切りの関係で私の靴箱は1番下で芽衣の靴箱は1番上。ちょっと背伸びをしながら靴を取る芽衣を見て男子的には萌えポイントなんだろうなと日々思う。
靴に履き替えて校庭に出る。まだビニールシートは貼ってあるままだが警察官の姿は見えなかった。
「飛び降り自殺だってね。佐武さん」
「え、聞いたの?」
「あのビニールシート見れば大体想像つくじゃん。だからちょっとかまかけてみたらあっさり口滑らせたよ」
芽衣の方の警察官はちょろかったようだ。じゃあ尚更金城先生は関係ないな。少しホッとした。
「ちょっと見に行く?」
校庭の端、正門を出ようかとするとこで芽衣が言った。
「嫌だよ。何があるか分からないし。なんか呪われたりしたらいやじゃん」
「だよね。冗談冗談」
芽衣はあははと軽く笑った。
学校の前にはもう報道カメラマン達は居なくなっていた。ほとんどの生徒が帰ったせいでもう生徒はいないと思ったのだろうか。
こんな時間に帰るのは始業式と終業式の時くらいだ。ただその時は周りに他の生徒もいるけど今日は2人だけ。
「みんなさ教室であんなに泣いてたのに警察官の質問には普通に答えてたらしいよ」
「そんなもんじゃない。本当に佐武さんが死んで悲しいなんて思ってる人多分あの中にいなかったし。あれは泣かないといけない雰囲気だから泣いてるだけ。みんな心の中ではテスト無くなってラッキーくらいにしか思ってないんよ」
と芽衣が言った。
「私もああいう時に泣けるようになりたい。」
「凛子には女優は無理だね」
顔だけならと言おうとしたけどやめた。
それからはいつものように他愛ない話をしながら駅まで歩いた。なるべく今日のことは話さないように。というより何かを話すほど私たちはこの件に興味を持っていなかった。金城先生が関係ないと分かった以上私にとって今日のこの件はもう終わっている。明日は来るといいな金城先生。
「もうすぐ電車来るじゃん」
芽衣が電光掲示板を見ながら言った。
この時間だと30分に1本程度しか電車が来ないからちょうどよかった。改札を通ってホームへと降りていく。
いつもの乗車口で2人並んで待つ。
「どうして佐武さん自殺したんだと思う?」
「急にまた今日の話?なんでだろう。別にいじめられてたわけでもないし。家庭の事情とかかな」
「金城先生に無理矢理されてそのショックって話もあるんだよ」
「無理矢理って何を」
「セックス」
自分の中でまた何かが込み上げてくるのが分かった
「そんなわけないじゃん。大体あの噂は金城が違うって言って嘘だったって分かったじゃん。佐武さんにも聞いてそんなことないって言ってたし」
「でも本当にそう言い切れる?凛子だってあの噂があった日いつもと違う何かを金城先生から感じたんじゃないの。だから佐武さんに直接聞いたんじゃないの」
「じゃあ仮にそうだとしてたった1回セックスしただけで自殺する?じゃあ金城先生は捕まるの?意味わかんない」
芽衣は黙った。私も黙った。どれくらい沈黙だったのかいつもあっという間の2人の時間が何倍にも感じた。
チャラリラチャリラリチャラリラリン
駅に電車が来る。
「ごめん」
芽衣が言った
「いや、私こそごめん」
「ちょっとジュース買ってくるね」
「あっ私の分も」
うんと芽衣が頷いて自販機に走っていった。いつもは大体人が並んでいるから1人が並んで1人がジュースを買いに行く。私は紙パックのイチゴオレで芽衣が紙パックのカフェオレ。今日は誰も並んでないから2人で買いに行ってもよかったがなんとなく一緒に行こうとはいえない空気だった。
電車が来る。なんで急に芽衣があんなことを言ったか分からなかった。芽衣は私が金城先生のことを好きなのを知っている。嫌がらせか。もしかして芽衣も金城先生のこと。
「凛子」
そう呼ばれて後ろを振り返った。その瞬間思いっきり背中を押された。不意をつかれて私は前にふらつく。左足で1歩、右足で2歩目3歩目の左足の下には地面がなかった。ホームから落ちるということを咄嗟に理解した私の体は背中で受身を取ろうとした。するとホームからこちらを見る芽衣が見えた。少し笑ったような芽衣の表情が。そこに電車が来た。
公転するフェティシズム 羊糸羽己 @chacca
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