⑩
警察官と話したらそのまま下校するということでこの教室から1人1人居なくなっていった。1人おそらく10分程度。最初は3人呼ばれて出ていったからおそらく3部屋くらい同時でしているのかもしれない。もしここに終わった人が戻ってくればどういう話だったとかなんとなく雰囲気をつかめるのだが。ある程度どんなことを聞かれるから想像はできるが警察官と話すなんて今までしたことながないから微妙な緊張感が教室に漂っている。本田さんが呼ばれた。50音順で呼ばれているから次が私だ。私も少し緊張してきた。隣の芽衣が机をツンツンと叩いた。
「終わったら待っててね」
「もちろん」
芽衣は私の次だ。
教室の前の扉が空いて警察官が入ってきた
「愛地さん。愛地凛子さん」
私の名前が呼ばれた。それまでの人たちと同じようにはいと小さく返事をして立ち上がった。いざ自分の前になるとドキドキする。別にやましいことはないのだけど。警察官と一緒に教室から出る。
「大丈夫ですか?」
緊張のせいか顔に熱を帯びている。紅潮した私を見て心配してくれた。
「だ、だいじょぶです」
噛んだ。恥ずかしさも相まってさらに私は紅潮した。警察官は察したのかキツくなったら言ってくださいねと言って歩き出した。
1階の生徒指導室前に着いた。廊下に副担任がいて入る前にキツくなったらすぐ出てきていいのよと言っていた。担任の金城先生だったらキツいと言って甘えてたかもしれないが今はそんな猫被る必要もない。
中に入ると女性の警察官が1人待っていてどうぞと目の前の席を指した。私が座ると案内してくれた男の警察官が女性の警察官の横に座った。
「ごめんなさいね。こんな時に。なるべく早く終わらせるけど辛くなったらいつでも出て行って構わないから」
小さくはいと答えた。
それから警察官がそれぞれ自己紹介をして私が愛地凛子で間違いないかをもう1度確認された。
「じゃあさっそくだけど質問するね」
「あの」
「どうしたの?」
「1つ、聞いてもいいですか」
質問されると思ってなかったせいか少し驚いた顔でこちらを見た。
「実際に辛いって言って質問の途中でここから出ていった人はいるんですか?」
警察官同士で顔を見合わせる。何かを目で合図してるように見えた。
「なんでそんなこと聞くの」
「さっきまでうちのクラスの人達ほとんど泣いてたんです。だからみんな辛いのかなと思って」
「愛地さんは辛くないの」
「同じクラスメイトが亡くなったことは悲しいです。ただ泣くほど辛いかと言われると分からないです」
「友達じゃなかったの」
「友達ではなかったです。2年生で初めて同じクラスになりましたけど、ついこの間まで一言も話したことなんてありませんでしたし。」
「ついこの間、、、その時はどんな話をしたの」
私の口が止まる。男の警察官の手も止まる。正直に言うべきかどうか迷った。ただ嘘をつく意味もないなと思った。
「話したと言うほどではないですが、金城先生との噂が本当かどうかって聞いただけです」
「それってどんな噂?」
「佐武陽子と金城先生が付き合ってるなんてよくあるしょうもない噂です」
「それで佐武陽子さんはなんて答えたの?」
「あり得ない。とだけ言われました。」
「その噂は誰から聞いたの?」
「芽衣から聞きました。朝の学校までの電車の中で。でも学校に着いたらみんなその噂で持ちきりでした」
「芽衣っ言うのは水鍵芽衣さん?」
「そうです。」
「実際に金城先生と佐武陽子さんが特別親しくしてるように見えたりした?」
「数学の補修はよく受けさせられていましたけどそれ以外は普通かもしくはそれ以下に見えましたけど」
うんうんと女性警察官が頷いている。
「他には金城先生の噂とかはなかった?」
少し考える。
「特に聞いたことはないです。そもそもその噂も金城先生がすぐに否定してすぐに消えちゃいましたし」
男の警察官が必死に紙に書いている。おそらく会話の内容だろうが今時スマホの録音機能でも使った方が楽だろうに。
「そっか。愛地さんが先生に聞いたの?」
「いや、クラスの誰かが聞いたみたいです」
「でも佐武さんには愛地さんが聞いたんだよね」
少しドキッとした。さすが警察官だ。するどい。
「金城先生が否定したっていう話は聞いてたけど佐武さんが否定したって話は聞いたことがなかったから。単純に興味です」
「佐武さんは仲のいい友達とかいなかったの?」
「多分いないと思いますよ。あの子ずっと本読んでて誰かと話しているところもほとんど見たことがないですし」
「いじめられたりしてた?」
無関心をいじめと呼ぶなら確かにいじめていたことにはなるが佐武陽子はあえて誰にも関わらずに過ごしているように見えた。
「私の知る範囲ではいじめはなかったと思います」
隣の男の警察官が必死に手を動かしながらうんうんと納得したように頷いた。
「分かった。ありがとう。じゃあ最後に1つだけ質問してもいいかな?」
私は頷く。
「金城先生ってどんな人?」
私の好きな人です、とはさすがに答えられない。
「気さくで授業も面白いしみんなから人気」
とだけ答えておいた。
「そっか。金城先生人気者だったんだね」
だった?
「金城先生も面談したんですか」
「それは教えられないわ」
「なんで金城先生のことを聞いたんですか?もしかして疑ってるんですか?金城先生のこと」
「それは答えられない」
「普通こういう時って担任の先生が出てきますよね。本当に体調不良なんですか」
「ごめんね。答えられないの」
「どうしてですか。そっちは色々質問してきたのにこっちの質問には何1つ答えられないって。おかしくないですか」
ガラッと後ろのドアが開いた。副担任が慌てて入ってきた。知らず知らずのうちに大きな声が出ていた。
「大丈夫愛地さん」
副担任が肩に手を当てて吸って吐いてと私に深呼吸させようとする。大人しくそれに従った。そのおかげが少し落ち着いた。
「すいません」
目の前の警察官に謝った。
「私の方がごめんなさい。あなたの言う通りね。でも今は何も答えられないの」
ばつが悪そうな表情で言った。
まだ副担任は私の肩を抑えている。
「もう大丈夫です」
と言うとその手を離した。
ありがとうございました。と警察官から感謝を述べられて教室を出ようとした時
「あっ」
と女性警察官が言った。
「そういえば最初の質問。今まで実際に辛いって言って出ていった人は1人もいなかったわよ。全員最後まで質問に答えてから出ていったわ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます