⑨
校長が壇上に上がるとすっと緊張感が走った。それが全校生徒にも伝わったのであろう。一斉に静まった。校長先生がゆっくりと話し始めた。
「もう担任の先生から聞いているかもしれませんが」
声が詰まる。
「2年3組の、、さた、佐武陽子さんが今朝、、、」
校長先生の涙に釣られて周りの人も泣き始めた。
校長先生はどれだけ佐武陽子のことを知っていたのだろう。2年3組の生徒であるということ以外に何かを知っていたのだろうか?ただ自分の任期中に生徒を死亡させてしまった。もしかしたらいじめが原因で責任を取らされるかもしれない。そんな風に考えてるだけでないんだろうか。多分私は相当性格が捻じ曲がっているな。改めてそう思った。
そのあとも大した話はなかった。体調不良の生徒はすぐに担任の先生に言うように。今日は担任の先生の指示に従って下校する様に。帰りにインタビューを受けても何も喋らないようにと言った内容だった。結局のところ佐武陽子が殺されたのか自殺だったのかとか何も語られることはなかった。
来た時と同じようにゾロゾロと帰る。その足取りは皆重く。いや、重く見せてるだけのようにも見えた。
教室に着くと全員が黙って自分の席に着いた。10時10分。本来なら期末試験の1時間目英語の試験を受けてるはずだった。
「泣かないの?」
下を向いてる私に芽衣が話しかけてきた。
「泣かないよ。だって佐武さんのことよく知らないもん」
「でも同じクラスの子が死んじゃったんだよ」
なんだか泣いてないことを責められているような気がして少し腹が立った。
「そう言う芽衣だって泣いてないじゃん」
芽衣が口元が少し緩んだ気がした。
「私はね」
芽衣がそう言いかけるとガラガラと扉を開けて副担任が入ってきた。ゆっくりと教壇に立って
「体調が悪いひとや気分が悪い人はいませんか?」
と声を発した。
ほとんど感情がこもっていない声は沈黙の教室に響いたが誰も反応しなかった。
「誰もいませんね」
ただ事務処理を行なっているだけなのだろう。ひどく疲れた様子の副担任におそらく誰もが同情しているだろうがなんと声を掛ければいいのかわからないから誰も何も言わない。さっき誰も手を上げなかったのはこの副担任に比べれば自分なんて元気な方だと思ったからだろう。
すっと1人が手を上げた。海野剛。私から左前に桂馬飛びした席の男子だ。
「金城先生はどうしたんですか」
多分クラスの全員が気になっていたがこの空気の中誰も聞くことができなかった。さっきの校長先生の話では全部担任の先生からと言っていた。亡くなった生徒のクラスだけ担任がいないというのはもしショックで寝込んでいるにしても副担任に丸投げなのは責任ないし、こういう時こそいるのが担任の役目じゃないのかと思う。それとも別の理由でいないのか。
「体調不良だと聞いてます。詳しいことは先生にも、わかりません」
「でもそれって」
と言ったところで海野の後ろの男子がポンと肩に手を置いて呟いた。声は聞こえなかったが口の動きから「や・め・と・け」だとわかった。クラス全員の気持ちを海野は代弁していだが今はとにかく副担任を解放することが先決だった。
「今日はもう下校になりますがこのクラスの人に話を聞きたいと警察の方からお願いが来ています」
そう言うと副担任が廊下の方に目を向けて軽く会釈をする。するとドアを開けて警察官が2人入ってきた。
それぞれ自己紹介をしてから話し始めた
「クラスの友達が亡くなって悲しんでいる時に本当に申し訳ないのですが少しの時間だけで大丈夫です。途中で気分が悪くなればすぐに退席してもらっても構わないので協力してください」
と言った。当然誰も反論できるような空気ではなく無言を了承と受け取った警察官がありがとうございますと言った。
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