⑧
「あんた金城先生と付き合ってんの」
そう聞くと佐武陽子は読んでいた本から目を離して私を少し見て
「付き合ってないよ」
とだけ言ってまた本を読み始めた。
担任の数学教師である金城先生と噂があったのは1週間ほど前だった。ある生徒が金城先生と佐武陽子が手を繋いでいるのを見た。という話だった。だいたい何をしても目立たない佐武陽子だったが1つだけ目立つことがあるとすれば数学が苦手ということだった。金城先生はみんなから好かれていたしその授業もわかりやすいと評判だった。そんな先生が担任のクラスだ。数学の成績はよくあろうとなんとなくそんなクラスの雰囲気であり実際他のクラスに比べて数学の成績は良かった。佐武陽子も他のクラスであれば目立つほど悪くはないのかもしれないがこのクラスではどうしても目立ってしまっていた。だから度々補習で呼び出されていた。その補習をしているうちに恋が芽生えてしまったといったような噂だった。
その噂が流れた日の1限目が数学だったのがよくなかった。金城先生が佐武陽子と付き合っている。そう思うだけで金城先生がいつもの何倍もカッコよく見えてしまった。元々背は170後半くらいあって顔立ちも悪くない。私は金城先生を好きになった。
その噂自体は誰かが金城先生に聞いて
「そんなわけないじゃん」
って言われたという噂が流れてすぐ消えた。全員がまさか佐武陽子なんかと考えていたからほらやっぱり嘘だったじゃん程度に終わってしまった。ただ私は信じなかった。1限目のあの時確かにいつもと違う雰囲気を感じた。噂が流れた時誰も佐武陽子に聞く人はいなかった。だいたい恋愛絡みの噂が流れればそれは双方に聞くのが通常だが、今回はあまりに有り得ない組み合わせだったから片方に聞くだけで終わってしまった。
自分の感じた違和感を確かめるために話しかけるタイミングを見計らって佐武陽子本人に聞いたのだった。それが偶然昨日のことだった。
ピンポンパーンポーン
あちこちから聞こえていた啜り泣く声も静かになった。
「今から全校集会を行います。全校生徒の皆さんは体育館に集まってください。」
繰り返します。と言って同じことを繰り返した。
ゾロゾロと廊下に並び出す。コソコソと話している生徒はいるもののほとんど静かに整列した。それから静かに前に続いていった。体育館に入ると多少ザワザワしていた。全校生徒が集まるのだいつもよりも小さな声で話しても1000人近くが集まればザワザワする。
3年生の最後のクラスが整列すると集会が始まった。
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