第5話 エピローグ~真相は神のみぞ知る~

 ローゼンクロイツ学園の裏山にある小さな社。

 鳥居も狛犬も賽銭箱も釣鐘もない。幾重にも張られた注連縄だけが神の領域であることを主張している。

 そんな神域に二柱の神がお茶を飲んでいた。指で黒い布をクルクルと回す世迷い様。そして世迷い様を封じるためにいる疲れた幼女姿の道祖神。


「……ずいぶん上機嫌ですね。私は今回の件で他の神からのクレーム対応に追われているのに」

「楽しかったもの」

「新九郎がバカな願いして負けただけのドタバタ劇が?」

「なに言ってるの新九郎は完全勝利でしょ」

「どういうことです?」


 世迷い様が回していた黒い布を道祖神に渡す。

 

「事の発端はこれ」

「黒いショーツですか?」

「横暴な姉の下着が自分の洗濯物に紛れ込み、死を覚悟した弟の絶望が始まり」

「え……ブルマは?」

「関係ないわ。事前に新九郎が仕込んでいたブラフね。あそこまで騒げば燈子もショーツ一つの紛失に気づかないでしょ。気づいても新九郎は女の子だし」

「……それで性別を代償にまでしますか」


 裁判で真実が明かされるとは限らない。筋が通って多くが納得すればそれが事実となる。

 呆れる道祖神に世迷い様がきょとんと返す。


「なに言ってるの? 性別転換も新九郎の願い。最初から願い事は二つよ。叶えるタイミングは違うけどね」

「新九郎の心は女性だったんですか?」

「違うわ。好きな女性がBL趣味で本のネタにされ続ける絶望をもっていたの」

「……それはまた」

「趣味を楽しんでいる姿が好きだったから邪魔もできず告白もできずね。女性になれば少なくとも本のネタにはされないでしょ」

「凄く本末転倒ですね」

「ふふ。今年は荒れそうよ。新九郎はローゼンクロイツの連中に似てるモノ」

「……あの問題児どもにですか」


 道祖神は憎々しげにまだ世迷学園の名前だった頃を思い出す。


「国が表現規制で同性愛本禁止法案を出した時代に立ち上がったあの連中と似ているとはずいぶんに気に入ったものですね」

「願いを確認したときに新九郎は言ったもの。『男に二言はない』って」

「それが?」

「願いの内容が女体化よ。あの場で私を前にして堂々と次回予告するとか面白いでしょ」

「……本当に荒れそうですね。ローゼンクロイツのときも色々な宗教神クレーム入れてきて大変だったのに」


 道祖神は暗澹たる未来にため息が零す。


「そういえば新九郎の願いが二つだとすれば代償はどうなっているのです? いくらお気に入りでも代償がないわけがないでしょ」

「面白かったし、ある意味女体化自体が代償みたいなものだから一つは相殺ね」

「もう一つは?」

「男性にモテるわ」

「……え?」


 道祖神の頬が引きつる。しばしの沈黙の後、世迷い様が繰り返す。


「女体化した新九郎改め新紅ちゃんは男性に凄くモテるわ。これは代償だから男性に戻れたとしても男性にモテ続ける」

「……厄神に願う愚か者への制裁だとしてもドン引きです」

「神と取引する方が悪いのよ」

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