【完結】イケメン旦那と可愛い義妹をゲットして、幸せスローライフを掴むまで

トト

異世界に行くために!

 私は孤児院育ちという以外はごく平凡な小学生であった。その小説に出会うまで。


 それは両親に先立たれ、天涯孤独だった少女が、小説世界に転生し最終的に愛に包まれた家庭を築くまでの話。

 それを読んだ私は


 ──私も異世界転生して、私を愛してくれる家族が欲しい。


 そう思った。

 それから私は、図書館で転生ものの小説を読み漁り一つの結論に達した。


 ──私が幸せになるための小説を書かなければ!


 舞台は絶賛ドはまり中の中世、もちろん剣や魔法の世界。妖精やエルフやドワーフ、モフモフ霊獣や猫耳亜人も存在する。王子様もお姫様もみなイケメン、美女。あと、私が一番気をつけたことは、奴隷は存在しない、悪役令嬢もバットエンドではなく、最後にはみんなハッピーエンドになる話。

 なぜなら、いままで読んだ小説世界の悪役令嬢や奴隷やモブに転生しようものなら、バットエンドを回避するのに、どれだけ苦労をするかわかったものじゃないからだ。

 それらの危険小説への転生、転移を回避するため、今まで読んだ小説は忘却し自分の書いた幸せ小説を、頭に叩き込む。


 それでも油断は禁物だ、今まで読んできた物語に入り込まない保証はない。

 破滅エンドまっしぐらな悪役令嬢になってしまったら、今の凡人な私が異世界で破滅エンドフラグをへし折りながら平和な家庭を持てるだろうか。いや否だ。


 異世界転生した人たちは自分の知識を生かして危機を乗り越えていくが、今の私に危険回避を可能にするずば抜けた頭脳も知恵もない。そして追放後の生活を支える特技もない。幼児スタートならそれでもどうにかなるかもだが、成人スタートだと、手遅れになる可能性大である。ならば考え付く方法は一つ。

 

 ──とりあえず、手に職を!


 中学に入学すると私はそんな理由で家庭科部に入部した。


 ──美味しい料理は世界共通、異世界共通。生きとし生けるもの食べなきゃ死ぬのは同じはず。


 死亡フラグだけ回避できれば貴族から平民に落とされても、手に職あれば、食うに困らないだけの仕事先は見つけられるはず、料理の乏しい世界線ならなお、私が新しい食の世界を広め成功する可能性だってある。

 食材が違っても、切って煮て、焼いて。自分でちゃんと味付けられるようになればいいのだ。それになんといっても、異世界で自分の口に合わないものを食べなくて済むのが素晴らしい。


 中学の三年間、部活動だけにとどまらず、お世話になっている孤児院の食事も積極的に手伝ったおかげで、先生もびっくりする早さで料理の腕をあげていった。それは文句なしに調理師資格のある高校に推薦状を書いてもらえるほどに。


 しかし私はそのまま料理の道には進まなかった。

 なぜなら、料理はあくまで保険。悪役令嬢に転生して時、お菓子を振舞って周りに媚をうったり、平民に落とされた場合の食いぶち確保の手段でしかない。


 もし、バットエンドフラグに時間を割かなくてもよい人物に生まれ変わったのなら、そしてそこが剣と魔法の世界で私に魔力があったのなら、私は間違いなく魔法使いを目指す。

 そのためには、世界の原理を知っておくことが重要である。


 どの異世界でも、火・水・風・土、魔法と言えばやはりこれらを自在に操れなくてはならない、そして今まで読んできた小説は、魔法を使うにはその原理とイメージが大切だと書いてあった。


 なので、高校では、原子や元素を学び、火がつく原理や、組み合わせによりレンガやプラスチックがどうできているのか、そういった仕組みを学んだ。


 これで、一つの魔法に特化することも、複数の魔法で錬金術をすることもできはずだ。


 ──私ってば、大魔法使いになれるんじゃない。


 ニマニマと科学実験に勤しむ私はさぞ現実世界の人々の目には不気味に映っただろう。

 でもそんなこともどうでもよかった。

 なぜなら私はもうすぐ異世界に行くのだから。


 ちなみに高校の部活は、一応魔法が使えない世界線も考えて剣道部と弓道部に入った。

 そうして充実した高校生活を送る中、私は転生・転移だけでなく、召喚で異世界に呼び出されることがあるという事実を新たに知った。

 

 ──聖女様として召喚されたらどうしよう。


 召喚された場合、だいたいは聖女様として癒しの魔法が発動するのだが、いきなり、この平和な日本で暮らしていた私が、血なまぐさい戦場に送られて、聖女としてちゃんと役目を果たせるだろうか?

 あと最悪なのは聖女の召喚に巻き込まれただけのモブの場合だ。

 何の力も持たされず私は料理だけで、そんな戦争なんてやっているような国で生きていけるだろうか。

 そこまで考えた私は閃いた。


 ──薬学と医学を学ぼう。


 そう薬学や医学に精通していれば、すぐに聖女として役に立てるだけでなく、巻き込まれ召喚でも戦場で聖女の助士として生きていけるかもしれない。

 それに料理の勉強で、すでに毒草や薬草についてはそれなりの知識がある。


 そこで大学は医療系の大学に進学した。在学中もより現場になれるため、世界の紛争地域に自ら足を運び野営病院で経験を積んでいった。

 これでいつなんどき、聖女または付属モブとして異世界に召喚されても、役立たずと捨てられることはないだろう。


 さあもう準備は万端である、転生・転移、召喚いつでも来いというものである。


 しかしいざ準備ができたら転生、転移の登竜門である事故などなかなな起きないし、召喚なんてひたすら待つしかやる事はない。


 だからといって自ら事故を起こすのは違うと思う。

 だいたい、小説では主人公は無職で引きもこもりだったりする場合が多いが、あいにく私は脛をかじる親がいないため、経済的に引きこもりはできない。そういった理由で今は学生だがこの先も無職になる予定はない。


 ただでさえこんな条件なので偶然トラックに引かれても、異世界にいける確率は低そうだ。

 だからなおさら自ら事故を偽造するなど危険極まりない博打である。


 それに自分の勝手な我儘で、トラック運転手に、人をはねて死なせてしまったという罪を一生背負わせるわけにもいかない。

 私にだってそれくらいの常識はあるのだ。


 トラック転生は無理そうなので、次に思いついたのはブラック企業転生である。

 これならば将来働くという私の目標も達成できるし、誰かに罪を負ってもらうこともない。

 

 ──よし、ブラック企業に就職するぞ!


 私は大学に残ってくれという教授たちに別れを告げ、大手企業からのスカウトも全て断り、町の片隅にあるいかにも人手不足で、みな疲れてはてた顔の人ばかりの小さな会社に就職した。


 面接した社長は履歴書を見て、なぜ我が社にと逆に怪しまれたが、口八丁手八丁で言いくるめ、うまく入社させた。

 

 それから私は馬車馬のように働いた。 

 上司から理不尽に振られる仕事だけでなく、同僚が背負わされた仕事も、後輩がやらなくてはならない雑用も、朝から晩まで休みも返上し会社が家なのかと言われるほど働いた。 


 その結果、小さな名もなき会社は、2年で中小企業へ、そしてさらに3年後には誰もが名を知らない者はいない大企業へと成長を遂げた。


 そして一社畜だったはずの私は、影の支配者と呼ばれる人物になっていた。

 進級を断り続けていたので役職こそついていないが、会社の中で私に逆らえるものは誰もいなくなってたからだ。

 社長でさえ、私の顔色を伺いながら話しかけてくる。私の一言で全ての方針が決まるようになっていたのだ。


 5年間休みなく働き続けた私は、周りがドクターストップをかけるぐらい過労死直前まで来ていた。

 しかしふと、今私が過労死したら、この会社はどうなるのだろう。そんな疑問が生まれた。


 本来社員が一人減っても誰かしら一緒にやっていたものがその仕事を引き継ぐものなのだが、しかし私は自ら進んでみんなの仕事を取り上げてきたため、引き継ぐ内容はとても一人では済まない量になっていた。


 それに全ての契約に何かしら私が関わっているのにその詳細も全て一人でこなしてきてしまったため、ほとんど皆は詳しい内容を知らないのだ。

 これでは私がいなくなった場合、倒産はしなくても、大きく会社が傾くことは想像に容易かった。


 ──このままではいけない。過労死後会社に迷惑はかけれない。


 そう思い私は私の受け持っている仕事を、その日から少しずづ引き継いでいった。

 そうして、全ての引き継ぎが終わる頃には、私はすっかり重役待遇に落ち着いていてとても残業をやらせてもらえる状態ではなくなっていた。


 そのため私は泣いてすがる社長たちをしり目に長い休暇をもらうことにした。

 本当は辞表をだしたのだが、どうしてもそれは受け取ってもらえず、ずっと働きづめだったから無期限の休暇扱いに留めてくれと、名前だけは抜かないでくれと懇願されたためだ。


 私も自分勝手に会社を大きくしてしまった責任も感じていたので、とりあえずは名前だけは残して、数年務めた会社を後にした。


 どうやら私は人より丈夫らしい、睡眠時間を削って過酷な仕事環境にあっても、結局過労死はできず、無駄に会社を大きくしてしまっただけだった。

 会社もいまや世界に恥ずかしくないホワイト企業へと変貌してしまったし。


 目標を見失った私は、虚無感を抱えながら久々に本屋に立ち寄った。

 そして再びそこで次の目標を経たのだった。


 ──『スローライフ』


 それは山を歩いているだけで、異世界に行ってしまい、そこでスローライフを送るという話だった。


 転生、転移はだいたい死ぬことによってだし、召喚は向こうの都合なのでいつどういった条件の下で訪れるかわかならいので対策の立てようがなかったが。


 ──山に行くだけで異世界に行けるなんて!


 目から鱗とはまさにこのことである。

 私はさっそくキャンプ用品をそろえると、山へと入っていった。


 初めこそ火をおこすのにも苦労したが、一度コツを覚えてしまえば後は楽だった。

 サバイバルナイフ一つあれば、たいていのことはやることはできた。

 木を切り抜き食器も作れるし、野草の知識もあるから食料に困ることもなかった。

 罠を仕掛けて狩っていた小動物も、数か月もする頃には、手製の弓で、鳥やイノシシを狩れるようになっていた。


 たまに病気や怪我をすることがあっても、わざわざ町まで降りずとも自分の知識の範囲で処置できた。

 そして今日こそは異世界の夜空が広がってるかもしれないと、淡い期待をこめながら星を眺めて眠った。


 そんなある日すごい嵐が私の住んでいる山を襲った。

 幸い私が住処としていた洞穴にはなんの影響もなかったが、嵐が去った後仕掛けていた罠にとんでもないものがかかっていた。


「大丈夫ですか?」


 人など通ることはないと思っていた罠に、年の頃は二十五歳ぐらいだろうか、見た目麗しい青年がかかっていた。

 一瞬とうとう異世界人と遭遇かと思ったが、その青年はこの先の山の奥の集落から来た者だった。


 どうやら数日前の嵐で村と町を繋いでいた通路が土砂で通行できなくなってしまったらしいのだ。

 そして運の悪いことに、今村人の大半が流行り病におかされていて、青年の妹もそれにかかってしまったらしい。

 村の常備薬もすでになく、物資はいつ届くか分からない、そこで青年は薬や物資を求めて山を下りている最中だったようだ。


 青年から聞いた村人と妹の病状から、早くに薬を飲めばなんてことない病気だが、遅れるとやっかいなことになる病名が浮かんだ。


 そして私は『その治療薬ならここにある材料でできるな』と思ったが、こんな山奥で女一人、原始人のように生活しているどこからどう見ても不審者、いや山姥のたぐいでしかない私の言葉を信じる者がいるとは思えなかった。

 私は説得するより、一刻も早く青年を街まで安全に送り届ける方法を考えた。


 しかし私が口を開きかけた時、青年が突然私の両の手を取って言った。


「──さんですよね」

「……えっ、あ、はい」


 久々に呼ばれた名前に一拍遅れ気味に返事を返す。


「なんで私の名前を……」

「やっぱり!」


 私は戸惑った。山に住み着いた怪しい人物として、警察から指名手配でもされてしまったのだろうか?


 そんなことを考えている私に青年は羨望の眼差しで続けた。


「中学生料理コンテスト創作部門で優勝、高校生剣道関東大会で準優勝、全国弓道大会で優勝──」


 新星を見つけたことや、環境に良い素材の開発にかかわったことなど、自分でも忘れているような出来事を青年は口早に語った。


「なぜ、そんなことまで……」


 自分のいままでの人生を見透かされてるようで、おもわずゾッとする。これはもしかしなくてもやはり青年は異世界人なのではないだろうか、そう思わざるえなかった。


「ノーベル医学生理学賞受賞おめでとうございます。今日本中であなたを探していますよ」

「ノーベル……えっ?」


 どうやら紛争地域でボランティアをしていた時作った薬草が、流行り病になる病気を未然に食い止めたとして、今更ながらノーベル医学生理学賞が決まったとのことだった。


 そしてその知らせを受けた日本政府は、私と連絡を取ろうとしたらしいのだが、務めている会社には出社しておらず、アパートも携帯も解約済み、どうしたものかと途方に暮れているとこを、マスコミがかぎつけたのだ。


 学生時代の華やかな実績。

 いまでこそ有名になった会社の影の立役者。

 今でも続いている、孤児院への寄付などの慈善活動。

 そしてノーベル賞。

 そんな人物が行方不明なのだ。


 テレビや雑誌は毎日のように私のことを取り上げた。

 何か事件に巻き込まれたのではないか?

 いまでも紛争地帯で人知れず活躍してるのではないか?

 いや、本当はそんな人物などいないのではないか?


 宇宙人・天使・異世界人。

 疑惑や憶測が飛び交った。


 それと同時に、いままで私に関わった人や、私に助けられたと名乗る人達の間から、感謝の言葉とともに、私の捜索願いの声が上がったらしい。

 しまいには前の会社の社長が懸賞金を付けて情報集めを始めたという話だった。


 ──あぁ、私は気がつかないうちに多くの人に心配をかけてしまっていたんだな。自分がいなくなっても誰も悲しむ人はいない、気がつく人もいないだろう。そう思っていたのに……


「どうか、妹を、村の人達を助けてください」


 青年は私に涙ながらそう訴えた。


「わかりました」


 私は青年に必要な物資の手配を指示し町に向かわすと、自分は手製の薬草を持って青年の村に向かった。

 青年と一緒でないので、どうなるかと思ったが、村人たちも私を見るなり、神の使いが現れたかのような歓迎をした。


 村人に信用してもらうために青年に一筆書いてもらっていたが杞憂だったようだ。


 そして青年が報道陣とともに、ヘリで物資を運んできたころには、私は村人のほとんどの治療を終えていたのだった。


 もちろん、青年の妹も無事に峠を超え、あとは栄養をとり安静にしていればなんの問題もなく回復するだろう。


『行方不明の女性が、嵐で断絶され病魔で危機的状況の村に突如降臨!?』


 あっというまにそのニュースは日本中、いや世界中を駆け巡った。


『ナイチンゲールの生まれ変わり! 聖女現る!』


 しばらくはそんな見出しが紙面をにぎわせた。


 それから数年。私は山間の小さな村で、診療所を兼ねたカファを営んでいる。

 すっかり有名となってしまった村にはいまだに多くの観光客や信者が訪れるので経営のほうは順調だ。


 ちなみにあの時出会った青年は今は私の旦那様になっている。

 罠にかかっていた時も綺麗な顔立ちだと思ったが、明るい日の下で改めてよく見れば、それはそれは、都会にいたらモデル事務所もほっとかないほどの美青年だった。

 そしてその妹も頬ずりしたくなる美少女だった。


 私を溺愛してくれる旦那様がいて、可愛い義妹もいる。もうすぐ新しい家族も増える。


 のどかな村で村人達にも慕われながら、のんびりとカフェと診療所を営むスローライフ。

 今から異世界に行けますと女神が現れても、即答でお断りするだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【完結】イケメン旦那と可愛い義妹をゲットして、幸せスローライフを掴むまで トト @toto_kitakaze

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ