常連さん ☕️
上月くるを
常連さん ☕️
新型コロナウィルスの流行で他者との交流を断ちきられた当初は孤独感に怯えた。
だが、人の脳にはどうやら変容に馴染むプログラムが組まれているものとみえる。
慣れてしまえば、スポーツジムもジャズ・ヴォーカルも自宅での自主トレがむしろ効率的であることが分かったし、いつまでも万年新人状態(笑)の句会も、先輩への
それに、自粛生活の初期に新たに参加したネット小説界での交流が思いのほか充実しているので、直接だれかと会って話さなくても、人恋しさを覚えずに済んでいる。
💪 🏃 🎵 📔
命名癖(笑)のあるカナの名づけて「積極的&快適自粛生活」。(*´▽`*)
そこから自然発生的に生まれた習慣のひとつに、近所のカフェ通いがある。
体温検査、手指消毒、換気、客ごとの席の消毒など感染対策は徹底している。
「いつもの」の4文字で通じてしまう女性スタッフたちはみんな感じがいい。
もちろん珈琲は絶品だし、朝のうちに行けば6人掛けボックスを独占できる。
専用応接室のような豪華ソファで、本の世界に没頭できる時間がたまらない。
――リアルもいいけどネットもね。( ^)o(^ )
ネットもいいけどリアルもね。( *´艸`)
そんな心境で、2年余りにわたる長い自粛生活をむしろ愉しんでいるカナだった。
🍂 🍂 🍂 🍂
晩秋の、とある朝。
よかったらどうぞ。
チラシを渡された。
――常連さんカラオケ大会開催!🎤
珈琲 & 軽食 & 参加賞付き!☕
コロナ禍の一億総節約時代(笑)には少々贅沢なカラー刷りだし、レイアウトにもプロのセンスが光っている優れたチラシではあったが、正直、気乗りはしなかった。
アフリカで新たな変異ウィルスが発見され、日本でも第六波が懸念されるときに、密室の屋内に大人数が集まるのはどうだろう。不織布マスク着用はもちろん「マイク本体にもマスクを付けさせます!」(笑)と吹き出しに書かれてはいるけれど……。
そんな戸惑いを見越したように、店長の女性が厨房から出て来た。
――じつは、オーナー夫人を励ます会なんですよ。(*´ω`*)
常連になって日が浅いカナには面識がないが、1970年代に夫婦でこの店を始めた伝説の創業者夫人が施設に入所するに当たってのお別れパーティということらしい。
たんなる憂さ晴らしのどんちゃん騒ぎではなく、そんな奥ゆきのあるストーリーの一節としての会ならば、ここはひとつ、いつも気持ちよく接してくださる店長さんの勧めに乗るべきかもね……物語好きなカナの気持ちが、ふっと動いた瞬間だった。
👦 👩 👴 👵
定休日の正午から始まったカラオケ大会は、モーニング専門の顔見知りの常連客連のほかに、ランチや夕食の常連さんたちも加わり、総勢30名余りの盛会となった。
コロナ休校のショックから学校へ行けなくなった小学生の女の子、サラリーマン、若いカップル、介護疲れの主婦、杖を突いて来る老人など客層の厚さが、このカフェが如何に地域の住民たちの拠りどころになっているかを問わず語りに物語っている。
店長さんの司会でスタートしたカラオケ大会のトップは、オーナー夫妻だった。
車いすを押す夫と認知症が始まっている妻のデュエットで『銀座の恋の物語』。
老夫婦の思い出の曲に、上品なグレーヘアに包まれた丸い顔が初々しく染まる。
元熱血高校教師(笑)はアコギ&ハモニカの弾き語りで『アイラブユー』を。🎸
仕事中に抜け出して来た珈琲販売会社の営業女子は、紺のスーツで『糸』を。👧
元ヤンという細マッチョな設計士は『ファンキー・モンキー・ベイビー』を。💃
義母をデイサービスに送り出して駆けつけた主婦は『ワインレッドの心』を。🍷
引き籠りだがなぜかカフェだけはOK(笑)の考古学研究者は『銀の雨』を。☔
参加者中で最年少の小学女子は、アニソン歌手並みの歌唱力で『紅蓮華』を。👹
フリフリのドレスに聖子ちゃんカットの店長さんは『赤いスイートピー』を。🌸
そして、カナは大好きなチャールズ・チャップリンの『スマイル 』を歌った。👒
⌚ ⏰ ⏱ ⏲
3時間はあっという間に過ぎ、最後にオーナー夫妻から全員に参加賞が配られた。
それは、家族団欒を絵に描いたような丸いカップ麺『赤いきつね&緑のたぬき』。
「幸せ」にかけて🦊 🐻を4個ずつ。
「末広がり」にかけて合計8個ずつ。
スタッフ手作りの紙袋の中でカサカサ乾いた音を立てるカップ麺は、今日この日、偶然のえにしの糸に結ばれて集った人たちの過去と現在と未来を祝福していた。💑
常連さん ☕️ 上月くるを @kurutan
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