秋の皇帝

つちやすばる

秋の皇帝


僕は秋にはさからえない

秋だけは何気ないふりをすることができない


その日の午後も遅く、友人と喫茶店に入っていって

お互いの顔を眺めたり、目を伏せて何事かを考えているふりをした

「疲れたのか?」

と友はきいた

僕はそれに頷いたが、なんだか違う答えも頭のなかにうまれつつあって、

だいぶあとになってから

「どんなに嫌なやつとも付き合うのは、ぼくはほんとはつかれることが

すきなんだよ、つかれることがしたいんだ」

と真剣になって言った

そいつは煙草に火をつけて、

ただニタニタ笑ってやがったっけ


秋の公園の中


空気は香水のようだ

それも極上の


お気に入りのウールのセーターは

あまりに青い


きみは

歩くのがはやいな


ぼくはすぐ足がくたびれる


くだらない哲学者となって

無意味 無意味 ああ 無意味だ

とつぶやいてみる

が それこそ無意味


僕が王なら

僕の犬ごと

獅子の鬣をしたあの犬ごと

吹き飛ばしてしまうのだろうか


枯葉のふとんのうえを

小気味よく舌の絡まりそうななまえの飼い犬が

通り過ぎてゆく


真っ黒な服を着た飼い主

――そのひとこそが?


いや

そんなことはないのだ


友よ

君の顔はみえないが、

僕を待って立ち止まっている



「秋の皇帝」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

秋の皇帝 つちやすばる @subarut

作家にギフトを贈る

カクヨムサポーターズパスポートに登録すると、作家にギフトを贈れるようになります。

ギフトを贈って最初のサポーターになりませんか?

ギフトを贈ると限定コンテンツを閲覧できます。作家の創作活動を支援しましょう。

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ