第九章ノ4
先に待ち合わせ場所についたのは聡祉であった。少しよも更けて風も強くなっていた為、両者とも夕食の時よりは厚着をしていた。聡祉は薄いグリーンのパンツにルネッサンス期の貴族が着る様な襟にフリルの様な飾りのついたわずかにクリーム色が入ったシャツを着て、その上からライトブルーの生地に金の刺繍をあしらったコートとガウンの中間の様な上着を羽織っていた。落ち着いた色で大人っぽさを出そうと考えたいたが、夜に明かりのないところで会う事を考え、なるだけ明るい色を使った。
少し遠くから瑛里華が歩いてくるのが見えた。瑛里華は部屋着感を出していた先ほどのベージュのネグリジェとは違い、ベビーピンクのワンピースにパステルパープルのストールを纏い、サンダルと言う出で立ちであった。いわゆる典型的な「あざとい」服装である。
彼女がまだ遠くにいるうちに、聡祉は魔法を使い、少し周りを温めてやろうと考えた。「炎の精霊よ。風とともに踊れ」智がそう言うと周囲の風が聡祉の周辺に集まったかと思うと微かな炎が風と共に舞い始めた。暗闇に橙色に照らされた聡祉の服は本来の色とは違う風合いを与えていた。瑛里華の服も遠くから微かに炎で照らされていた。聡祉と言う太陽の中に瑛里華と言う花が吸い寄せされていく様だった。
二人は目を合わすと微笑みあった。
「素敵なガウンね。なんだか大人っぽくも見えるし、いつもの聡祉君らしくも見える。不思議な感じ」
「ありがとう。瑛里華さんも綺麗だよ。寒くなったら言ってね。魔法であっためてあげるから」
瑛里華は少しはにかむ様子を見せながら答えた。
「うん。ありがとう」
「岩の陰で座ろうか。ワイン持ってきてあるんだ。温めてあるよ」
「じゃぁ遠慮なく」
二人はガラス製のワインボトルに入ったホットワインを、切り出して間もない木のカップに注いだ。樫の木の様な森の息吹を感じさせる香りと、老成したワインの香りが相まって、落ち着いた豊かな風味を嗅ぐわせていた。
「ロマンチックで知的な香りね。あっためたワインを木のコップで飲むなんて考えた事無かった」
「僕の父がドイツでキャンプに参加した時にこうやって飲んだらしいんだ。それ以来、うちでは特別な時にはこうやって飲むんだ」
瑛里華が少し俯きながら話を始めた。
「素敵ね。うちの両親あんまり海外行かないんだ。家の家業が古いでしょ。でも私は本当は海外に行きたかったの。高校の時に両親に話したら、『うちはそう言いう事にはお金を出しません』って言われたの。娘が海外の文化に染まっていくのが嫌だったみたい。まさか反抗もできなかったし、家を出る事もできなかった。なんだかそのままずるずると今日まで来ちゃった。私、聡祉君や哲也君も、丸山君も羨ましかった。だって男の子ってなんだかんだ言って自由でしょ。うちは商売が古いし一人娘だから、目立つ事はさせたがらないの」
「そっか。でもこうして異世界に来れて、戦士になって、魔法まで使える様になって。なんだか不思議だね。考えられない位の事が人生に起きてるのに、なぜかみんなちゃんと適応してる。僕なんか父親の仕事ついでる様なもんだし」
二人で遠くの星を見ながら笑いあった。
「ねぇ、聡祉君はここでの生活はどう感じてる?」
「結構気に入ってるかな。大変なこともあるけど、大変じゃない仕事なんてどうせないわけだし。僕は今まで両親の地位に守られて生きてきたかたら、自分でいろんな交渉をすることが無かった。でも今は、校長先生や教授に連れられていろんな人と話してるから刺激があるね。瑛里華さんはどう?教室は大変でしょ。いつも瑛里華さんの大きな声が遠くまで聞こえてるよ」
「嫌だ、あたしそんな大きな声だしてる?」
「うん。かなりね。でも元気があっていいと思うよ。そういう瑛里華さん今まで見たことなかったから。元気な人を見てるとこっちも元気になれるから」
「ありがとう。聡祉君がそういう人で安心した」
拳一坊やの事を話そうとしたがいい雰囲気を保ちたかったので聡祉は話題を変えた。
「瑛里華さんはどういう母親になりたい?」
「私は両親が厳しかったから、優しい母親になりたい。ちゃんと子供の事、理解してあげられる親になりたいな。いろんな経験をさせてあげたい。高校でラクロス始めたのだって、反対を押し切ったんだから。」
「そっか。僕の両親は子供の時からいろんなものを見させようとしてたな。海外にもよくつれてかれたよ。でもやっぱり注意深くコントロールされてたなって気がする。うちの両親は本当の貧困層も知ってるはずなんだけど、ここにきて思ったのは、本当の貧困って思ってたより複雑なものだっていう事だったね」
「うん。わたしもそう思った」
瑛里華は返事を少なくする事で会話のペースを落とそうと思った。会話が無くなった時の空気に心地よいものを感じることが出来れば、その先の事は書くには及ぶまい。
異世界に転生したら民生委員になった件 @lotus_bustard_jobless
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