裸の科学者
高黄森哉
裸の科学者
「遂に完成した」それも、ようやく。「これは、透明に成れる薬だ」だから、「早速試してみよう」、と博士は思った。
博士は自分の身体が、じわじわと透明になっていくのを見た。硝子よりも澄んでいて、人の目には見えない。博士は服を脱いで、透明な状態で、新薬の発表を行うことに決めた。その方が分かり易い思ったのだ。
緊急の会見はとても緊張していた。博士が裸のまま入って来たからだ。そうだ、あの薬は、飲んだもは自分の身体が見えなくなる、そんな薬だったのだ。
世間は、薬にたたない薬を開発したとして、博士を笑いものにした。
その一方で、博士の薬は飛ぶように売れた。例えば、大きな傷が出来た人が、ショック死しないように服用したり、極度の不安症の人が、自分が見られている、というパニックを起こすのを未然に防ぐ目的で、飲んだりしたのだ。
それなのに、新聞やソーシャルメディアは、まだ彼をネタにしていた。やはり、その薬をまったく役にたたないものとして宣伝していた。そして、その記事の後には、かならずこんなふうに科学者のミスをこき下ろすのだ。「この件は、自分の意見が正しいと思い込む、科学者の独りよがりな思考が良く表れた、事件の好例だ」と。
裸の意見が売れる世の中である。
裸の科学者 高黄森哉 @kamikawa2001
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