人生の選択 ~赤いきつねと緑のたぬき~

あかがみ

人生とは選び取るもの

迷い、人生は迷い。迷いとは人のさが


よわい八十を超えようとも迷うものは迷う。


今、わしの目の前には超難問が降りかかっておる。


机の上に、圧倒的存在感をはなつ二つの


目の前には『赤いきつねうどん』と『緑のたぬき天そば』・・・言わずと知れた即席カップ麺である。


我が愛妻であるマルちゃんが、昼飯にと置いていったものだ。


さすがマルちゃんである・・・。


だがしかし、二つともわしの大好物である。


目の前の『赤いきつね』と『緑のたぬき』どちらを食うか大いに悩むこと間違いなしだ。


わしはすっかり白くなってしまった自慢のひげしごきつつも、目をそっと閉じて、一言漏らす。


「これも天命か・・・」


わしがあやふやな心持ちでどちらを食べるか選択しては、製造者に申し訳がたたぬ。


うっすら目を開け赤と白の刺激的なパッケージを見る。


コシのあるうどんに、味のしみた大きなお揚げがたまらんやつだ。


もう一方の緑と白の優しいパッケージへと視線をずらす。


のどごしのよい蕎麦そば、香ばしい小えび天ぷらはいきである。


すでわし心中しんちゅうは「きつねとたぬきの大戦争」が勃発ぼっぱつ中だ。


そして、赤いきつね軍と緑のたぬき軍は、両軍ともに優劣はつけがたい情勢である。


「そういえば、『緑のたぬきと赤いきつね』とは言わぬな」


何でもない疑問がわしの口からこぼれ落ちた。


「赤いきつね」の発売開始が1978年、「緑のたぬき」は二年後の1980年だから順番通りに言っているのか、それとも単に語呂ごろの問題かはわしにはわからぬ。


「まぁよい、些末さまつなことだ」


より深い思索しさくふけることにする。


泣きながら食った思い出や、笑いながら食った思い出、たくさんの思いが走馬灯のようにめぐる。


きつねもたぬきも人生のいろどりを与えてくれたわしの相棒たちである。


「きつねとたぬき・・・なかなか選べぬな・・・」


ふと外をながめると鳥が自由に大空を飛んでいる。


ただただゆっくりと時が流れ、わしの心はみきった無我の境地へと辿たどり着く・・・まさに明鏡止水。


おもむろに立ち上がり、台所へ行き棚をあさる。


中華麺の『麺づくり 鶏ガラ醤油しょうゆ』を手に取った。


こやつは、つるつるした細麺で、スープの味わいも深く、うまい。


妻が帰ってきたら『赤いきつね』と『緑のたぬき』は共に食べよう。


「わが人生いなし」

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