最終回 スイートピー -門出-

 公園のブランコに乗り、太い鎖の金属音を鳴らしながら揺らす。

 もう誰も遊んでいない時間帯というのをいいことに、俺と優璃は隣同士で座ってブランコを占拠する。


「俺、今まで誰も信頼出来なかったんだ」


 俺は俯いたまま優璃にそう言う。


「そうなの?」

「ああ。人と対面してる時は基本相手に不信感を抱いてるんだ」

「それは僕に対しても?」


 優璃の声と共にブランコが揺れる。

 きっと優璃はこちらに体を向けたのだろう。

 俺は依然として俯いたままだ。


「…今までは」

「じゃあ、今は僕を信じてくれてるんだね」

「…でも、まだ完全に心は開けない」

「そっか。じゃあ斗君が僕に対して完全に心を開けるように…信頼に応えられるように頑張らなくちゃだね!」


 またブランコが、先程よりも大きく揺れる。

 俺は小さく深呼吸をして、ある事を解き放つ。


「わからないんだけどさ、何で俺相手にそこまで出来るんだよ」

「え?」

「だって俺は遠回しに君を信頼出来ないって言ってるようなもんなんだぞ?出会ってそれなりに経ってるのに…おかしいって普通怒るだろ」


 俺の知る限り、ここまで一緒に過ごしておきながら“まだ信頼に値しない”なんて言われたら普通の人間ならふざけんな、とキレるだろう。


「そう言われても…怒ったところで信頼を得られる訳じゃないし」

「いや、そういう問題じゃ」

「それに僕はもう、斗君を独りにしたくないから」

「…!」

「ねぇ斗君…君はどうしたいの…?」


 突然優璃にそんな事を問われる。

 どうしたいか、なんて言われても…なんて思ったが、一応頭を抱えて考えてみる。

 

「…俺は、何の雑念も無く純粋に心の底から笑い合えて、嘘偽りが1%も無く本音を言い合える、そんな人が居てほしい」


 人を信頼するのが怖い。何故か?裏切られた時の絶望をもう味わいたくないからだ。


 でも、独りは寂しい。


 だからせめて1人くらい… 裏切られる心配も一切する必要のない程に信頼できる、そんな人が1人でもいいから居て欲しい。


 こんな矛盾している面倒な要求。

 それが俺の望むもの。“したいこと”では…ないな。


「その“人”は、僕じゃ…だめ?」


 俺の手と足、そして地面しか映っていない景色に、突然白くて綺麗な手と共にそんな言葉が入ってくる。

 俺の手をぎゅっと握るその綺麗で細い手には、確かに温もりと意思を感じた。


「優璃…」

「僕は…斗君の唯一無二になりたい。ずっと隣に居たいし、一緒に色んな事したいし、今よりもっと上の関係になりたい…だから…ね?」


 優璃は自分の秘めたる欲をぶち撒けると、ぎゅっと握る俺の手を引っ張って俺の身体を抱きしめる。

 …優璃の小さな胸が俺の胸に当たる。


「…僕を、選んでください」


 優璃は俺に抱きついたまま、そう言った。


 …何黙ってんだ、俺。

 もう良いだろ。ここまで来てまだ疑うか。

 いい加減、素直になれ…俺!!


 俺は自分にそう言い聞かせる。


「お、俺は…君の事が…!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

君は元カノと瓜二つだが、俺は素直に好きになれない。 枝乃チマ @EdaPINAPOP

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ