一人飯なの 私気ままに 麺をすするの

椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞

バカにしないでよぉ!(ジャカジャン!

 カップの赤いきつねを持って、わたしは廊下を早足で駆け抜けていく。

 待ち時間は五分だ。

 とはいえ、自販機から教室までのんびり歩いていたら、その五分を過ぎてしまう。


 一人飯の私は気ままに、麺をすするの。


 女子の一人が、教室に入ってきた。

 私と同じ、ぼっち飯グループの緑川さんだ。

 陰キャである私とは違う。

 彼女はヤンキーで、群れるのを嫌っている。

 他の生徒たちも、彼女には関わろうとしない。


 それにしても、彼女の持っている容器は、もしかして?


 教室を歩いていた女子の足が、お揚げを持つわたしの腕とぶつかった。


「あっ!」


 わたしは、お揚げを容器に落としてしまった。

 はねたオツユが、女子のセーラー服にピトッとかかる。


「んだよ赤石、サイテーじゃんッ!」


 お揚げ落としたら隣の女子から「汁が飛んだ」と、怒鳴っているから私もついつい大声になる。


「ばかにしないでよぉ! そっちのせいでしょ!?」


 ヤンキーだろうが、言い返す。お揚げを台無しにされそうだったんだから!

 こちとら、このお揚げのために生きているのだ。


「ん? お前のそれ、『赤いきつね』か?」


「そういうあんたの容器は、『緑のたぬき』?」


 彼女が緑のたぬきを持っていたから、関係性は変わった。


 同じ東洋水産ユーザーということで、意気投合する。



 セーラー服のスカートにかかったツユを、私は裁縫用の綿でトントンしてあげた。


「赤石。なんで、赤いきつねだったのだ?」


 緑川さんが聞いてくる。

 

「東洋水産の創業者が、当時流行っていた山口百恵の『プレイバック Part2』から名付けたそうですよ」

「そうじゃなくて。なんで、お前は赤いきつねを食ってたんだって」


 なんだ、そんなことか。

 聞くまでもないだろう。


「主食です」

「あたしと同じか」


「できましたよ」と、私は緑川さんにスカートを返す。

 すっかりのびてしまったが、赤いきつねをズルズルと口へ流し込んだ。

 

「もう、これなしでは生きられません」

「ぶっほ!」


 ジャージ姿の相手が、緑のたぬきを吹き出す。

 

 今度は、私の胸元にオツユがかかってしまった。


「ちょっとバカにしないでよぉ!」

「いや、七味が気管に」


 緑川さんが、乱暴に私の胸元をハンカチで拭う。

 どさくさに紛れて私の貧乳まで触ってきたのは、決して見逃さない。

 

「そんなにおかしかった?」

「いや、あたしも緑のたぬきに命がけだから」


 言ってから、緑川さんは容器をグイッとあおる。 


 まさか、こんな形で同士に会えるとは。


「あの、これからも一緒に食べませんか?」


「……勝手にしやがれ」

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