第7話 金髪のツインテール
去年の僕は友達の数を何倍しても0だったわけだが、ここ二週間の出来事で世界は目まぐるしく変化していた。
そして四月も終わる頃になって学校の中でも入れ替わりの時期がやってきたらしい。
「みんなー?今月の終わりには生徒会選挙があるからねー。三年生は生徒会に入る事はないけど、学校のことだからみんなしっかり投票するように!」
この新学期で前期の僕たち三年生の代が務めていた生徒会を正式に、一個下の後輩たちに引き継ぐというのを
生徒会長やもちろんそれに準ずる各役職はこの生徒会選挙で選ばれた者しかできない。大抵は正義感の強い、その学年を代表するような人間にのみ許された舞台なわけであって、まず僕みたいなのは無関係なイベントだ。
「今年は生徒会長の候補が二人いるらしいの。この二週間学校の敷地内で宣伝とかやってるだろうからしっかりみんなも目を向けるように!」
先生は連絡事項を伝達し終わると、手持ちのバインダーを閉じて一時間目に遅れるなと忠告しながら教室を出て行った。
クラスは生徒会長選挙の件でガヤガヤと騒ぎ始めたが、僕の隣はとてもつまらないという顔だった。実は僕もあまり興味がなかったので、二時間目が終わる頃にはすっかり忘れてしまっていた。
キーンコーン、カーンコーン
――なんで僕が行かなきゃいけないんだ……。
当然というべきか必然というべきか、またしても僕は赤坂さんにパシられていたのだった!!
「私は先に中庭に行ってるから、あんた私のメロンパン買ってきてよ。一階の購買あるでしょ?あそこのやつめちゃくちゃ美味しいのよ!」
……ということで現在に至る。すっかり昼休みは赤坂さんと一緒に「面白い事を考える会」に強制参加させられるようになり、どうやったら僕の能力を面白おかしく使えるかという事について話し合う時間になっている。
ただそんな事よりも今はこのコミケをも
「えーっと……、メロンパン、メロンパンっと。」
購買は売り切れるのが早いから、少し強気にいかなければ目的の物は買えない。メロンパンを買えずに中庭に帰るようなことを想うと、ここで
「あ!おばちゃん!そこのメロンパン一つ!」
「そこにあるメロンパンを一つください。」
ほぼ同時、いや僕の方が言い出しは少し早かったかもしれない。
そしてちょっとだけ驚いた。
そこには金髪ツインテールのまるでアニメに出てきそうな雰囲気を
この人混みの中でもすぐに見つけられそうな、いや探さなくても目に入ってくるようなオーラすら感じる。
そう、正直に
「どっちでも良いけど。はやく、払ってよね。」
「ああ、すいませんじゃあこれで。」
急いで小銭を台に置いてメロンパンを受け取った。
そのまま人混みから抜けて中庭への通路に行こうとしたその時、また後ろから声が飛んできた。
「私のメロンパン返してください。」
振り返って、やっぱりさっきの子だったと心の中で
「あーいや、ごめん。これ僕のじゃないんだ。人に頼まれてきたからさ。」
胸のボタンが緑色だ。緑はたしか二年生の制服だったからこの子は一個下か。
「じゃあ
「え、えぇ?」
「自分が食べたいなら自分が買いに行けば良いだけの話です。」
これが彼女 カナリア・イリス・シャーロット との誠実で
「じゃあ私、急いでますので。」
少し時間が経過してから、頼まれていたメロンパンを買いそびれてしまった焦りと、理不尽に強奪された彼女への怒りが湧き上がってきた。
――仕方ない……。戻るか。
「あれ、遅かったじゃない。」
怖くて目が合わせられない。
「ああ、うん。ごめん。」
「……ごめんっ!!!メロンパン売り切れてて買えなかった!」
「あ、そう。それは残念だったわね。まあ良いわ早く座って食べましょ。」
予想外の即答に思わず声が出てしまった。
「えっ、いいの?」
「別に良いわよ、メロンパンの一つや二つ。」
そう言いながらポケットから大量にメロンパンを取り出した。彼女の初めての優しさに感動しかけたが、そんな事はなかったとハッキリとわかった。
なんだアレ。四次元ポケットかよ。
それからは天才発明家のキテレツ話を淡々と聞かされ続けた。
「……それはそうと、赤坂さん!後輩、つまりは一個下とか二個下の学年の人達に知り合いとか交友がある人っている……?」
無理矢理にでも話を遮る必要があると思ったし、半分以上は実現されるのが怖いというところか。我ながらよく頑張ったと褒めてあげたいくらいだ。
「私転校してきてまだ二週間よ?できるわけないじゃない。」
「そうだったね。あはは。」
絵に描いたような苦笑いだ。
「でもたしか一人、私につっかかってきた奴がいたわね。友達とか仲が良いとかじゃないけど覚えてるわ。転校初日に髪色がどうのって言ってたわね。」
「ああ。赤坂さん目立つ髪してるもんね。」
「あんたこそ私以外に話せる人ほぼいないじゃないの。深瀬さん?だったかを除いたらもういないんじゃないの?」
「失礼な!僕にだって友達は……。たぶん?いや、おそらく?……いや、きっと友達みたいな人はいるよ。」
「へー。」
ここまで綺麗に空返事できるのも一種の才能か。
実は一人だけ友達にはあてがある。向こうはそう思っていないかもしれない。僕だって半分くらいの気持ちだ。ただ僕に近い、限りなく一緒のレベルでひそひそと学校生活を送っている、彼ただ一人を僕は勝手に友人と決めつけていたのだ。
赤と緑とそれから無色 @Queeen
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