第1027話 期待せずに待ってます

前世では平民の権利が弱かったからこそ、白魔術師は神殿か権力者に囲われなければその力を活かして生きていくなんてほぼ不可能だった。


どこぞの村の住民が白魔術師の適性があるなんて話が広まったら、即座にその領地の貴族に召し抱えられるか、神殿にスカウトされるか・・・噂を聞きつけた賊に誘拐されてそこで酷使された。

場合によっては違法な奴隷商人に攫われて他国に売られる事もあるらしかったし。


まあ、国内の権力者が折角の白魔術師を取り返そうとするから、非正規な連中に捕まっても運悪く国境近くに生まれたんじゃない限り救出される可能性はそれなりに高かったが。


白魔術師を敵に回すと『精一杯頑張りましたが力が及ばず・・・』と肝心な時に見殺しにされる可能性があるし、誰もが白魔術師を欲したから貴族や神殿で囲まれても頼る先を変えるのは比較的自由だったしで、全般的に白魔術師の扱いは良かった。


そこら辺が、徹底的に弾圧・搾取対象にされてた黒魔術師とは違ったんだよねぇ。


まあ、それはさておき。

白魔術師が単独で働くのはほぼ不可能だったから、前世では社会の体制として彼らを守るシステムは特に必要なかったのだが・・・現代日本ではなまじ職業選択や働き方の自由があるから、回復師が自立して働くことも建前上は可能だからこそ彼らを守る制度設計が重要になる。



「医師免許を持つ、若しくは医者の監督下で無ければ治療行為をするのは違法であると言うのは理不尽な制約な気がしますが、術師で実際に回復師としての能力を持つ人間と詐欺師との違いを認定する機関が無ければ詐欺が大量に横行して大変な事になるのも事実でしょう。

かと言って、退魔協会に回復師の認定を任せるのも不安ですし」

碧が苦笑しながら北野夫妻に言った。


「術師の認定ならば退魔協会がするのが一番良いのでは?」

北野パパが尋ねる。


「切り傷を治せるかをその場で見て認定するだけだったら別に退魔協会じゃなくても誰でも出来ます。

でも、複雑骨折や内臓疾患を本当にきちんと治せているかの認定は・・・同じ回復師か、ちゃんとした検査施設のある医療機関で無ければ難しいでしょう」

碧が指摘する。


確かにね。

内臓の疾患とか関節の痛み程度だったら私だって痛覚を麻痺させる事で治ったと患者本人に誤認させる事は可能だ。

ちゃんと治ったかを確認するには回復師か、レントゲンなりCTスキャンなりその他諸々の検査機器とそれを見て理解できる教育を受けた人間が必要だろう。


「それに・・・今回のご招待に関しても、退魔協会はこちらに相談も報告もせずに私たちの名前と住所を北野さんたちに提供したので。

あそこの個人情報保護に関する信頼度は極めて低いですよ」

碧が付け加えた。


「そうなんですか?!

あの不快な会社の訴訟を叩き潰した報告をした弁護士に、お礼を言いたいので千聖の生霊を戻して下さった術師に連絡を取れないかついでに聞いてくれと頼んだだけだったのですが・・・」

北野パパがちょっと唖然とした様に言った。


おいおい。

圧力を掛けられた訳でもないのに勝手に忖度して私達の個人情報を漏らしたのか、退魔協会!


退魔協会が白魔術師の認定をする様になったら、ほぼ確実に白魔術師の情報が政治家とか経済界の大物に売られるか、無料で流されるかしそうだね。


「私の叔父は回復師の適性があり、それを使って人を助けたいと態々医師免許を取って個人医院を開業して地元の人を助けようとしましたが、徹底的に地域の大手医療機関に嫌がらせと妨害行為を受けて数年で閉院する羽目になり、今では無医地区になっていた離島に移住してそちらで医者として働いています。

医療機関の嫌がらせは許し難いですが、考えてみたら政治家や大企業等でも同じ様な圧力を掛ける事は可能でしょう。

しかも単に追い出そうとするのではなく、囲い込もうとする方になったとしたら更に酷い搾取にも繋がり兼ねません。

だから何らかの形で回復師の権利と自由を守る制度が確保された上で、人助けを強制される事なく、気が向いたら助ける事が出来る社会になったら嬉しいと思います」

碧が言った。


でも、難しいだろうねぇ。

ある意味、社会の大多数である民衆は白魔術師の権利を保障し過ぎて自分や家族を治すよう強要できないシステムは望んで居ないんだから。


まあ、期待せずに待ってますってとこかな?



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流石に新しい制度設計まで行くのは無理だし時間がかかり過ぎるので、ここで一区切りとします。


明日は休みますが、明後日からまた宜しくお願いします!







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