彼女の幸せなウェディングパーティー

白里りこ

Congratulations


 高校時代の友人の結婚式の二次会に出席する。


 新婦とは部活動もクラスも一緒で、本の趣味も合うよき仲間だった。

 大学からは離れ離れになったが、たまに部活仲間同士で集まって会うような、そんな関係だった。


 私は長いコートを羽織って、一人でコツコツと靴音を鳴らして駅に向かった。


 本当は披露宴から出席したかったのだけれど、私の知り合いはことごとくが仕事や何かで遅くなるとのことなので、私もそれに合わせて二次会からの参加にした。


 私は暇だ。心の病気で無職だから。

 ついでに恋人もいない。というか、いたことがない。


 新婦は健康で仕事もあって結婚相手がいる。立派な結婚式を開ける。


 その差を思うと黒くてもやもやした気持ちが胸の中で渦巻く。


 国語のテストでどちらが学年一位を取るかを競い合った仲なのに、どうしてこんなに違ってしまったのだろう。


 人生は不公平だ。


 そんな思いを抱えながら会場に行くのは嫌だった。純粋な思いで新婦の幸せを祝いたかった。


 やがて私は桜木町の駅に着いて、観覧車の光る空を見上げた。開始までにはまだ時間に余裕がある。


 少し、頭を冷やそう。綺麗なものでも見て、心を落ち着かせよう。


 動く歩道に乗って、イルミネーションがよく映える道まで近づいて行った。

 日が落ちたばかりの空に、色とりどりの光の粒が煌々と輝いている。

 綺麗だなーとは思ったが、胸のもやもやが消えることはなかった。むしろ、こんなところで一人で暇を持て余している自分が惨めになった。


 こんなことで大丈夫だろうか?

 新婦を心から祝福できるだろうか?


 結論から言うと、大丈夫だった。


 会場に着いて、友人たちの顔を見た瞬間に、ごちゃごちゃとうるさい感情は溶けて無くなった。

 本当に、何事もなかったかのように、すっかり無くなってしまった。


 私たちは「久しぶりー」と言いながらも、全然久しぶりじゃないみたいに、打ち解けあって話した。誰もが新婦の幸せを祝っていたし、お互いの再会を喜んでいた。


 親しい人たちと会うことは、心の一番の薬だ。


 私たちは近況を報告しあったけれど、私は何のてらいもなく「相変わらず職がない」と言うことができたし、友人たちも「そっかー」と何でもないことのように話を聞いた。

 他の人の話も聞きながら、私の気持ちは浮き立っていた。


「お待たせしました。いよいよ、新郎新婦の登場です」


 新婦とかつて共に吹奏楽部で演奏した思い出の曲が流れ始めた。扉が開いて、夜の空の色をしたドレスを着た新婦が、新郎と共に現れた。


 私はめいっぱい拍手をした。綺麗だなあと思った。とても綺麗だ。

 夜景なんかよりずっとずっと。


 私たちはお酒を飲み、食事をつまみながら、談笑した。


 新婦は色んな人と会うのに忙しくて、なかなかじっくり話せなかったが、私は心からのおめでとうを言った。


 おめでとう、おめでとう。


 他人の幸福を喜べるのは、自分にとっても幸福なことだ。


 人生は不公平かもしれないけれど、私の人生は幸福だ。

 心の病気で毎日苦しくて、働けなくてお金もなくて、おまけに恋愛経験もない。

 でも、とっても優しい友人たちがいる。


 私は光を放つ観覧車に背を向けて、友人たちと喋りながら、わいわいと帰途に着いた。


 幸せな一日だった。

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