第19話 聖女の闘い方



「………すまない」


「どうして、謝るん……ですか?私を、助けて、くれ、(エホッ!エホッ!)」

「こんな状態もの、助けた内になど!」

「エヘヘ………わ、私、お姫様抱っこ、初め………嬉し……………」



 茶色い髪色をした小魔女しょうじょの頬を、一筋の涙が伝った。

 まるで微笑むはにかむかの如くに安らかな寝顔へと移ろい逝く少女の腹部はらには、百足擬きの大穴つめあとがポッカリと開き、ドクドクと流れ出る血肉いのちは最早止まらない………。



「おぉおぉ、これはまた痛そうだな、随分と。だからいつも言っているのだ、危なくなったら逃げろ、とな♪」

「………もういい、それ以上口を開くな」



 俺はやはり、聖女が嫌いだ。

 嫌悪、忌避、胸焼け、吐き気………、好き嫌いと語るよりこの感覚は、と呼ぶ方が相応しく。

 特に命を使い捨ての道具の如くに嗤う、貴様のその表情えみが、俺は殊更に気に入らない!!!!!


(キンッ)


 と、隠しもせずに切った鯉口。

 先ずは煩い百足擬きを見据える俺の手を魔女は止める………。



「クフフフフ。何が気に障ったかは知らないが、任せて貰おう。此処は私に♪

 そしてこの機に一度見ておくと良い、お前様。

 我ら聖女がたる、聖女闘いというものを………」



 魔女は腰の杖を右の手に、変わらず不敵と歩みを進める。

 不用意、不注意、無謀無策。

 魔女の歩みに戦術や技術、強者の纏う気配の類いは一切無く、


『雷槍(ライトニング)!!!』

「フフ、流石に足りんか♪」


 バチリと弾けた雷撃も、あれ程の物理たいくの前には無力と見える。

 力も策も無く、ただ無闇に距離を詰めるなど、正に愚策以外の何物でも無い。無いのだが、それでもなお魔女の不敵は変わらない。



(キシャアァァァァァァ!!!)

「…………ふむ、流石と痛いな」

「な!?」


 襲い来る百足擬きの牙に魔女は己が右腕を差し出し、避けも防ぎもせず。肩口まで呑み込まれたその身は、空高く持ち上がる。


「さてと化け物。世話になったな………私の可愛い、教え子が!!!」


『迸れ、迅雷。神槍(グングニル)!』



 轟くその奇跡は、青天の霹靂。

 穴という穴、節という節から白煙を上げる百足擬きは、黒き消し炭と化して地に沈み。フワリと降り立つ魔女の身体は、自らの血飛沫にベットリと染まる………。その出立ちは聖女などとは程遠く、片腕を失ってもなお不敵に微笑むその姿はまるで………………まるで、



「クフフフ、どうしたお前様? まるで聖女バケモノでも見た様な顔をしているぞ、フフフフフ♪」



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灰色の孤樸 22時55分 @keep-left

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