第18話 聖女の惨事



 鎧蟲。紫髪の魔女曰く、この白き化け物の存在を認めしは今より凡そ200年ばかりの昔。聖女の始原、『八ツ髪ノ聖女』なる者達が乱世を治めた頃にまで遡る。


 ………いや、正直眉唾だ。


 いくら外海の世と疎遠たる絶海の我が浦ノ島くにであろうと、この様に面妖な化け物が200年もの永きに大陸をのさばっていたのなら、話の一つとは言わず、百や二百ゆうに舞い込むは道理。

 そもそもは聖女とかいう異形の者達の存在自体、俺が見知ったのはこの数年の話だ。故に今、魔女の語った話の総てを鵜呑むことなど能わない。



「おい、お前!さっきからのコレは、一体何の冗談だ」

「はぁ!? アンタ何言ってんの?見れば分かるで、しょ! 私達のなる連携で、鎧蟲てき翻弄フルボッコしてるのよ。トリャ───────♪」

「………いや、冗談で無い事の方が問題か」



『岩針(グランドスピア)!!!』

『大火球(デカフレア)!!!』

『風刃(エアスラッシュ)!!!』



 武器を使う者、杖から魔法を放つ者、色とりどりな攻撃の応酬………。コレが連携だと? フン、笑わせる。



「チッ………。おい、其処の集団。

 硬い外殻に無闇と魔法を撃っても大して意味はいない。地を操る其方は、先ず鎧蟲ムシの動きを止めろ。他の者は目や口の柔らかい所に魔法を撃ち込め!」

「え!?で、でも」

「いいからヤってみろ!」

「は、はい!」


「そっちの者達も同様だ。武器を使うのならば、関節か外殻の隙間、柔らかい部位を狙え。さすれば、特別な技術わざなど無くとも刃は通る。

 そして無駄に敵の側へ留まるな! 反撃は勿論、魔法みかたの射線軸すら塞いでいるぞ」

「は、はい!」


「ク、クフフフ♪ 浦島太郎ジョン、流石だな。皆の動きが格段に変わった、お前様はただ一言二言号令こえを飛ばしただけだと言うに」

「フン。この程度、基礎のの一画目にすら及ばない。………それより其方、この者達の師でありながら、この様な惨事をこれまで捨て置いたとは、一体どういう了見だ?」


「随分な言われようだな、惨事とは♪ そんなに酷いか?ウチの可愛い小娘どもは」


「あぁ。この程度の練度、直ぐに死人が出てもおかしくない」

「クフフフフフフフフ♪ 死人、ね」

「………其方、弟子の危機を嗤うのか?」



 ………やはり魔女などとは、相容れない。

 込み上げるは怒りにも似た嫌悪と忌避。

 背後から悲鳴こえがしなければ、俺は白夜こしの鯉口を切っていた。



「キャ───────!」



 振り返れば、森の木々の背丈を軽々と。

 荒れ狂うは、他の三倍はゆうに越える程に巨大な鎧虫………。


 忌むべき小魔女の今際とて、太郎の名を継ぐ者がこの光景を捨て置くことなど、能わない!!!




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