最終話
僕と羽月はお母さんに見送られ家を出た。
外は夕暮れに包まれ、もうすぐ日が暮れようとしていた。
目指す場所は地元の神社。羽月が神社の裏山の少し上ったところが明かりがなく星が綺麗に見える隠れスポットがあるらしい。羽月のお母さんはそれを知っていて、祭りにも行けるように浴衣を着せたようだ。
ゆっくりと歩幅を羽月に合わせるようにして歩く。会話をすることなく、黙々と僕達は歩いた。
信号で止まったところで、子連れの家族が二人いた。母親同士は楽しそうに話しながらも子供が走っていかないように目配りをしていた。そんな母親には気づかず、僕の腰くらいの高さの子供たちははしゃいでいた。
「あっくん私の浴衣どう!?」
「きれい!」
両手を広げながら浴衣を着た女の子が自慢げに男の子に見せつける。こんな子供ですらリア充なのか……とショックを受けている間に信号は青へと変わった。
子どもたちはそれに気づき母親の手を引っ張り神社へと向かっていく。僕達はその後ろをゆっくりと歩く。
信号を渡り終わった後、急に羽月が歩くのをやめた。
「羽月? 具合でも悪くなったのか?」
僕はスマホを手に取り、救急車を呼ぶ心配もしたが、羽月はその心配をよそに両手を広げる。
「私の浴衣! どう!」
羽月はさっきの子供の真似をして僕に聞いてくる。
「どうって……」
「まだ言ってもらってないもん」
「え……に、似合ってると思います」
「んー、60点かな」
「じゃあ百点回答は?」
「世界で一番かわいい」
「赤点回避で満足です」
僕の採点を終えた羽月は、だんだんと近づいてくる太鼓や笛の音に誘われるように神社へと足を速めた。
「羽月まてって」
「えー、じゃあ何かお話してくれたらゆっくり歩いてあげる」
「じゃ……じゃあ、何でRainで流星が僕だって気づいたの?」
「最初は何となくだったけど、何かすごい文哉君だったらいいなって思って、勢いでボイスメッセージ送っちゃった!」
「勘かよ……」
「えへへー」
僕達はその後も会話が途切れることなく話し続けた。ゆっくりと歩きながら。
そして、ちょうど日が暮れたころ、僕達は祭りの会場へとついた。
今は夜の七時。流星群は八時くらいらしい。
「ちょっと時間あるけど何か買ってく?」
「んーじゃあ、かき氷とたこ焼きとわたあめ!」
「そんな食べれるの?」
「文哉君が半分頑張るの!」
「まじですか……」
僕達は羽月が買いたいものを全部買って神社の裏側へと回った。
十分くらい坂道を上ると、祭りばやしの音は小さくなり、風の音だけがよく聞こえた。
「羽月……大丈夫か?」
「……うん、平気だよ……」
僕達は古くなった気のベンチに腰を掛けた。ここはどうやら、公園の跡地らしい。
「よくこんなところ知ってたな」
「昔ね、よく……来たんだ。秘密基地みたいで、話す友達いなかったけどね」
返しずらいことを言う羽月に対して、僕がしどろもどろしているとそんな様子を見て羽月が笑う。
「君は流れ星がどんな時に流れるか知ってる?」
「流れ星はね、あれは、大切な人との思い出なんだよ」
羽月は疲れているのか、力のない声で言った。
僕は羽月の流れ星の説明が良く分からなくて首を傾げた。
「昔おばあちゃんが言ってたの。いくら大切な人との思い出でもね、人間ってそれ以上に忙しくて、大変で、苦しくて、辛いことで頭がいっぱいになっちゃって、その子の事忘れちゃうんだって。でもね、歌の歌詞の一部とか、ある本のたった一言で、その人との思い出が溢れかえる時があるんだって。そんな時、流れ星が流れるんだよ」
「じゃあ……今日みたいな流星群の日は、たくさんの人が大切な人を思い出しているってこと?」
「うん……だからね……文哉君にも……流れ星が流れたら思い出してほしいんだ……」
「何を……」
「……わ……私のこと……」
羽月は今にも泣きそうな声で言った。
「私さ、……もうすぐ死んじゃうから……誰かに……思い出してほしくて……」
「そんな大事な事……僕で良かったの?」
「文哉君が……いいんだよ……。文哉君がデザートを持ってきてくれたのすごい嬉しかったの。ずっと……ずっと嬉しかったの。だから、だからね……」
「私の事……思い出してほしいな……」
その後、僕は羽月を背負い羽月の家へと帰った。背負った羽月は嫌に軽かった。その軽さが、羽月が元気ではないという現実を僕に叩きつけた。
それから三日後。
羽月は息を引き取った。
あれから十年がたった2021年11月18日。
今日は流星群が見れる日だ。
今日は、大切な人との思い出が夜空に降り注ぐ日。
さぁ、僕らも夜空に願いを届けようか。
君との夏は流星群となって夜空に降り注ぐ 空野 雫 @soraama1950
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