第2話
自転車に飛び乗るようにして、僕は彼女のもとへと向かった。
回る車輪がまるで時を戻すかのようにして、僕の記憶を巻き戻す。
小学校のころ、心臓が悪い友達がいた。名前は羽月。彼女は、学年が進むにつれ学校に来ることが少なくなっていた。僕はある日、彼女が好きなデザートが出た日に、プリントと一緒に彼女の家に届けに行ったことがある。
それから、友達に彼氏だとかなんだかっていじられてから、僕は彼女の家に行くことをやめたんだ。今思えば、人間関係が面倒だと思い始めたのはこのころからだったかもしれない。
信号に引っ掛かり止まるたびに、汗で濡れたシャツが肌にくっつく。途中、何度か道を間違えた。もう何年も使っていない道だったし、一度しか行ったことのない場所だったから思ったよりも忘れていたようだった。
それにやけに人通りが多く感じた。周りを見渡すと、提灯が出ていることに気が付いた。そうだ。今日は地元の祭りだ。子供も大人も、神社がある方へと歩いていく。僕はその流れとは真逆へと自転車を漕ぐ。
道どころか、存在も忘れてしまっていた相手だ。今更会いに行って、どうなるのだろうか。そんなことを考えているうちに、僕は彼女の家の前へとついていた。
僕は唾を飲み込み、インターホンを押した。
「はーい、どちら様でー」
陽気な声とともに、ドアが開く。少し小太りした女性は一瞬キョトンとしたがすぐに思い出したようだった。
「あなた、文哉君よね!? 久しぶりねー」
「どっども、こんちっは……」
僕はなっさけねー声であいさつした。リアルで人と会話するのがここまで下手になっているとは自分でも思わなくて、思わず下を向いてしまった。
「羽月に会いに来たのよね? 上にいるから……どうぞ上がって」
「あ、はい」
僕は靴を脱ぎ、二回にある羽月の部屋へと向かった。僕は羽月の部屋のドアをノックする。
「はーい」
ボイスメッセージと同じ声だ。僕はその声を聞き、ドアを開ける。
「おかーさん? どうしたn……!!!!!!!!」
「羽月……久ぶり……」
「閉めてぇぇぇええええええ!!!!!」
「え、は、はいすいませんでした!」
僕は羽月に言われるがままに、部屋を出た。するとその声に驚き、葉月のお母さんが階段を上がってきた。
「どうしたの羽月? せっかく文哉君が来てくれたのよ」
「今、髪ぼさぼさだからやなの!」
「そんなわがまま言わないの。ほら文哉君はいっちゃって」
僕は羽月のお母さんに背中を押され、ほぼ無理矢理部屋に入れられた。
「え、えっと久しぶり……」
「……うん」
羽月は掛布団で顔を隠しながら僕と会話を続けた。
「えっと……その……ボイスメッセージ……無視して……すいませんでした……」
「…………傷ついた……」
「ご、ごめん」
「ほんとに反省してる?」
「うん」
「じゃあ流星群見に行こ」
「え、でも……大丈夫なの?……その……体とか……」
「私ね、明日から入院なんだ……どうしても今日の流星群が見たくて、伸ばしてもらったの」
「そ……そっか」
「だから連れてって」
「いや……でも……」
「抜け出せばバレないから協力してよ」
その時、羽月の部屋のドアが開き、羽月のお母さんが部屋に入ってきた。
「文哉君……どうか……羽月を連れて行ってあげてくれない?」
「お母さん! 聞いてたの! 最低!」
「羽月……文哉君と行きたいんでしょ? なら……行ってきなさい」
「いいの!?」
「文哉君さえよければね」
「文哉君お願い! 連れてって!」
「え、ええと、はい」
僕は、相槌の様に返事をしてしまった。
「そうと決まれば、そのぼさぼさの髪を直さなくちゃね」
「うん!」
僕は羽月の準備ができるまで、リビングで待たされた。
三十分くらいして、階段を下りてくる音がした。
そして、ドアがゆっくりと開く。
「どう……かな?」
そこには、赤い浴衣で包まれた羽月が立っていた。
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