第3話 モノを動かす方法

こうして、世界は構築された。が、色々散策した結果、やっぱりなにかおかしい。

というのも、そこにあった景色というのは見えてはいるんだけど、おかしい、所々が空白というか、見る方向によって見えたり見えなかったりするというか、そういう感じなのだ。散策中にちょこちょことついてきた子供は、


「ここは君の記憶、あなたが見た角度以外の部分は出力できない。」

と言った。


「それってめっちゃ困るんだけど、何とかならない?」


「厳密に、想像して補完するしかない。」


「厳密に、想像?」


「そう、ここはこうなってるから、こう見えるはず、という風に、的確に、厳密に想像すれば、それを出力することはできる。」

「どれくらい厳密に?」


「徹底的に。あなたが知りうる限りの厳密さで。大丈夫、ここは時間は無限にある。あなたが居なくなることもない。出力した情報は好きなときに戻すこともできる。徹底的に、厳密に教えて。」


死ぬことのない世界に放り出され、無限の時間を生きる、といわれ、それは逆説的な「死」ではないのだろうかと思いつつ、このままだと不便で仕方ないので、「厳密に想像」することにした。


建物の形、過去の空間認識によって得た記憶によって自分が認識している限りの情報を「想像」する。


しばらくして、子供がまたぼんやりと光ったかと思うと、あたり一帯に光の球がふわふわと飛び回り、なんとなくふんわりした状態ではあるものの、一応の景色というのが構築された。


ただ、やはり音は聞こえない。そして鳥や昆虫や同じ場所にいたはずの人たちもやはり見えなかった。子供は、


「ここは君の記憶、あなたの意識下に上らなかった部分や想像しなかった部分は出力されない。そして。音は空気の流れ。これはすべての時空の情報が同じ空間に出力された結果。」


なるほどと、一応の納得はしたものの、研究所の駐車場まできたあたりで、またびっくりするような景色に遭遇した。バスである。


自分が乗ってきたはずのバスはもはやバスとしての形を成していなかった。まるで巨大なヘビのように道なりにぐにょーんと伸びていたのだ。


「これは・・・」


その異様さに思わず口に出してしまった。


「ここは、時間も空間もない、情報の世界。これもすべての時空が同じ空間に出力された結果。」


「や、それにしてもこれはやり過ぎじゃ・・・」


「どうすればいい?」


「バスをバスの形として、それでいて、動くように」


「それだけじゃわからない。厳密に、厳密に教えてほしい」


バスがこのままの状態というのは、なんとなく気持ちが悪いし、見ていてマジで酔うのでなんとかしたい。


なので、徹底的に厳密に考えることにした。


まず、バスの状態である。ある瞬間のバス、厳密にはバスが研究所に到着し、バスのドアが開いた状態のバスを考えた。


すると、子供がひかり、バスはその状態に形を変えた。


「これって動くの?」


子供はじっとこちらを見つめる。


「あぁ、徹底的に厳密に考えるのね。」


えっと、どうやって動かそう。位置関係が変わればいいから、ある瞬間のバスの状態になるように書き換えればいいのかな。パラパラ漫画とかテレビ画面の描画みたいに、今の瞬間のバスの状態のほんの一瞬前のバスの状態に書き換えるというのを延々とやれば、バスが逆戻りしていく気がする・・・。


「OK。やってみる。書き換えるスピードとどのタイミングで書き換えるか、なんかも厳密に考えてね。」


「うーん、この辺りは感覚的なものだから一旦自分が想像した通りにやってもらって、調整していくことはできる?」


「あまり、極端だと何が起こるかわからないけど、ちょっとずつなら・・・」


そういうと子供はひかり、バスが・・・、


すごい勢いでバックしていった・・・。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

アナザーアウター おるのん @olnon

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ