井戸の中
Strong Forest
1 井戸の中
井戸の中で白いワンピースを着た女が手招きしている
口元にうっすらと笑みを浮かべているように見えるが、暗くてよく見えない。
長い黒髪でちょうど目の部分が隠れている。薄暗い井戸の中で女の白い肌だけがやけに青白く浮かび上がって見えた。
「こっちへおいで」
女の呟きが井戸の中に静かに響く。
私は唾を飲み、この状況下で自分が為すべき何が正解なのか思案した。
女は天を仰ぎ両腕を伸ばしてきた。ぎこちなく小刻みに動く女の指は、目に見えない何かをつかもうとしているのか。
女の両手が井戸の壁をつかむと、右の爪先が上がり井戸の壁に引っかかった。
女はかるく跳び上がりながら、今度は左の爪先を壁につっかけると同時に右手を更に上に伸ばし、壁から少し出た壁石を掴んだ。
女のか細い声が耳元で聞こえる。
「愛してるって言って」
気付くといつの間によじ登ったのか、すぐ隣に女がいることに気付いた。
「愛してる」
私は震える声で言った。
「嘘つき」
女の声も震えていた。
「誰も私のこと、愛してくれない」
女の頬を涙が伝った。
井戸の中 Strong Forest @strongforest
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。井戸の中の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます