第5話 元の世界に戻りたい? なら……わかってるよね?2

「……ちょっと、どうして後ずさるんですか? 黒田さん」


「ち、近づかないでくださいッ! この変態ッ!」


 救いを求めていた態度から一変、侮蔑ぶべつを込めた目を俺に向け、自分の体を抱くように距離を取る黒田さん。


「元の世界に戻りたいんじゃなかったんですか? なんでもするんじゃなかったんですか? あの言葉は、意志は、すべて嘘だったんですか?」


「噓じゃありません! 単純にあなたが信じられないだけです! なんですか、その突拍子もない欲求にまみれた条件は! せ、せ、せっ…………なんて、絶対にしません!」


「ちょっと待ってくださいよぉ。その言い方だとまるで俺がセックスがしたいがために無知な女の子を騙してるみたいじゃないですかぁ~やだぁ~」


「とぼけないでください! だいたい、せ、せ、せっ…………が、解放される条件とか、なにを根拠に!」


 黒田さんの至極真っ当な質問に、俺は両手を広げ、天を仰いでから答えた。


「神からの……お告げですよ」


「……………………」


 言葉が返ってこない。一体どうしてしまったのだろうか? 俺は黒田さんに視線を戻す。


 彼女の表情は恐怖の色に染まっていた。


「どうしたんですか? そんなに体を震わせて……あ、もしかして寒いんですか? 寒いんですね? だから震えてしまってるんですね? なら今すぐ温め合いましょう――肌と肌で!」


「ち、違います! というかあなた、ここに長く滞在しすぎて頭がおかしくなってるじゃないですか!」


「俺は真実しか述べてません。俺だって元の世界に戻りたいんです」


「嘘くさいです」


「本当ですよ。いいですかよく考えてください? 元の世界に帰還する方法は俺が童貞を卒業すること……そう! 俺は童貞なんですよ! 童貞がここまで大胆にセックスを誘うってあり得なくないですか? あり得ないですよね?」


「……まぁ……そうですね」


「ですよね? つまり――俺も本気で元の世界に戻ろうとしているんです! だから恥を忍んで黒田さん、あなたにセックスしましょうと申し出てるんですよ!」


「あの、そもそも私はあなたを信用していないんで、なんと言われようと無駄です。絶対に無理です…………それじゃ」


「どこ行く気ですか?」


 背を向けた黒田さんに俺は訊ねた。


 彼女は振り返らずに答える。


「新山さんと一緒にいるよりも一人でいる方が安全と判断したので」


 千載一遇のチャンスが逃げてしまう、どうにか引き止めなくては。


「あ! そうだそうだ……言うの忘れてましたが、夜になると奇怪な化物が出没するようになるので、どうか気を付けて下さいね?」


 この世界にドンピシャでマッチしそうな嘘を思い付いた時にはもう、俺の口から声となって発せられていた。


「……………………」


 元の世界だったら鼻で笑われるであろう嘘も、ここでは効果を発揮するようで、黒田さんは足を止めてくれた。

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この世界から解放されるにはセックスするしかない~誰もいなかったはずの世界に招かれたヒロイン誰かとセックスしろとか、童貞の俺には少々厳しすぎる気がするんですが? 深谷花びら大回転 @takato1017

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