第4話 朝
チュン……チュン……
ん……もう朝か。久しぶりにベッドで寝たからかぐっすり寝てしまった。しかしやけに布団が重い。ってかこの感触は……。
「くー……」
首を持ち上げて身体を見てみると輝夜が僕を抱き締めるように寝ていた。
「お、おい!輝夜!?」
「むー、うにゃにゃにゃ……」
声をかけても振り解こうとしても輝夜は目覚めない。おまけに僕を抱きしめる力が半端なく抜けられない。
可愛い寝顔でとても気持ちよく眠っているし彼女も恐らく野宿続きだったのだろう。とはいえこの状況は正直男としては嬉しいが彼女が目を覚ました時にあらぬ誤解を生むかもしれないしどうにかしないと。
そう思っていた時、不意に部屋の扉が思い切り音を立てて開いた。
「おうおうおう!テメェいつまで寝てやがる!さっさと起きて準備しやが……れ?」
いきなり部屋に入ってきたのは昨日風呂場で知り合ったジールさん。
彼は僕に抱きついて寝ているカグヤを値踏みするかの様にじっくりと見ている。後ろにいる猫耳の女性は顔を赤くして顔を手で覆っているが中指と薬指の隙間から目が見え隠れしている。おそらく昨日言っていたジードさんの恋人か奥さんだろう。
「ふっ、随分とお楽しみの様だったみたいだな。朝から仕方ねぇ奴な。下で待ってるぜ」
「ちょ……違うんです!誤解です!って話を聞いてよ!!」
ジールさんと女性は扉をそっと閉めて出て行った。残るのは前に手を伸ばす僕と抱きついている輝夜だけ。
「むにゃむにゃ……どうしたんですか……?ん……もう朝なんですねー。おはようございます」
「あのさぁ……とりあえず離れようか?」
「え?あ、はわわわわわわ!わ、私を手篭めにしよううとしたんですか!?しかも下着がない!!ま、まさか私のはじめ「それ以上はやめろ!」ぶぇあぁぁぁぁ!!!」
でついつい頭を引っ叩いてしまった。女に手を出すのは初めてかもしれない……物理的な意味で。
「下着は昨日の風呂上がりから付けてなかっただろうが!だいたいお前が勝手に俺の寝るスペースに来たんだろうが!俺は抱きつかれてたんだぞ」
「うー、いったーい。お父様にも叩かれたことないのに……」
反省した様子も無く彼女はヒリヒリしている頭をさすっている。同時に僕の怒りも頂点に達する。
「遺言はあるか………?」
「ひゃああああごめんなさーい!実家にいた時から寝相の悪さには定評がありまして。よく抱き着く癖がありましてよく兄に怒られてました。……でも殿方は抱きつかれると本当は嬉しいんじゃないですかぁ?」
輝夜の頭に雷のような一撃を落としてやると流石に輝夜の口は閉じた。
「うー、まだジンジンします」
「自業自得だ。人を待たせてるから早く準備してくれ」
「ん?知り合いですか?」
「あぁ知り合いって言っても昨日風呂場で知り合った冒険者だ。色々あって次の街まで連れて行ってもらうことになった」
「風呂場でおしり、あい」
「おい変な所で区切るな」
「色々と趣味趣向はありますからね。何があったか教えてくれてもいいですよ?じゅる……」
さらに二発目の雷げんこつがカグヤの頭上へと落とされた。
用意を終え宿の食堂へ向かうとジールさんと女性がテーブルで朝ご飯を食べながら待っていた。
「すいません、お待たせしました」
「おう、気にすんな。今日は足腰使うから気をつけろよ?」
ニヤニヤ笑いながらジードさんは腰を前に突き出す。
「だから誤解ですって」
まったく、この人はそういうのが好きなんだろうな。
あ、後ろのお姉さんからツッコミという強烈な一撃が入った。
「もうジードったら下品すぎるよ!あ、今朝はゴメンね!邪魔するつもりは無かったんだ。アタシはルファ。こいつとは腐れ縁ってやつよ」
「っ痛ぁぁ!!おいおい、それだけじゃねぇだろ。俺達は冒険者兼夫婦だろ?昨日の夜だってま「死ね」へぶら!!」
凄まじい勢いで踵落としがジードさんの脳天に入ったが……色々な意味で大丈夫か?
「ゴメンナヒャイ」
「わかればよろしい」
間違いなく尻に敷かれてるな、この人。
「そっちのお嬢ちゃんもいることだし改めて自己紹介だ。俺はジード、こっちがルファだ。二人でこの周辺で冒険者やってる。取り敢えずお前らも朝飯食っちまえ」
「二人ともよろしく!」
二人共軽装でジードさんは腰に剣を、ルファさんは弓矢を背負っている。二人組で冒険するのに前衛後衛でバランスが良いからだろう。
そして獣人は人間とは違い身体能力に優れているという。その点から二人共に軽装で素早さと力技で魔物を倒すと予想する。
「私は東の国から来ました輝夜と申します。御二方、宜しくお願いします」
なんか丁寧だな。僕と二人の時と違うぞ。しかしこうやって汚れを落として丁寧な振る舞いをしていると高貴な身分の様に見えるな。……中身は全然だが。
取り敢えずテーブル席に僕と輝夜も座り朝食を摂ることにする。注文すると暖かいパンとスープが出てきた。
「ところでお前ら加護職はなんだ?一応パーティー組むわけだし能力知らないとな」
「え…えっと……け、〈剣士〉です」
一応剣をちらりと見せる。
いきなり聞かれるとは思わなかった。確かに一緒に組むなら聞かれて当然だった。カグヤと初対面で聞かれなかったから油断していた。
「わ、私は〈侍〉です」
侍か……やけにたどたどしいが。この国でいう剣士みたいなものでこちらの剣とは形状が違う刀を主に武器とする加護職だ。
加護職のことを知り以前家にある書物で様々な加護職を調べたからか加護職には詳しくなった。だが僕の本当の加護職〈召喚士〉については殆ど資料がなかったのだ。能力や詳細については全く書かれていなかった。最悪で災厄な加護職と言われているが何が出来るかも知りたい。力がないよりはマシだ。
「ってなると二人共前衛か。少しバランス悪いが……まぁ仕方ねぇ。俺達には加護職なんてものないからある程度は何でもこなせるからな」
ジールさんの言う通り加護職を持つのは人間だけとされている。
亜人と呼ばれる「純粋な人間」以外は加護職を持たない。その代わりに彼らは能力に優れていると考えられている。ただ人間も人間で戦闘向きの加護職でなくても鍛えれば強くなるし勉強すれば知恵もつく。
それでは加護職の恩恵など無いかと思われるが加護職があればその職にあった能力の伸びが全然違うのだ。
幼い頃から鍛え上げられている僕がまったく鍛えていない〈剣士〉にならまだ太刀打ち出来るかもしれないが鍛え上げられた〈剣士〉にはおそらく手も足も出ないだろう。
「さて俺達が拠点にしている街へ行くんだが、取り敢えずこの道をずっと進んで行けば辿り着く……だけどな、遠回りなんだよ。だから少し進んだ所から森へ入ってショートカットする」
「えー、また森ですか……」
「なんだ嬢ちゃん森は嫌いかい?」
「いえ、最近山道ばかりだったので普通の道を通れるのかと期待してしまいました」
本当にガッカリしているな。まぁ出来れば楽な道を歩きたいって気持ちは分かる。
「そりゃ残念だったな。だが徒歩だと半日ぐらい着くのがおくれるぜ?途中に宿も無いし野営したいってなら別だがよ」
「森を進みます!!」
輝夜は正直者だな。ただ早く着くなら早いに越した事はない。ノアル家からの追っ手が無いとも限らないし、彼らの力が及ばない他国へ早く行かなければならない。
この道中何も無ければいいが。
最悪で災厄の加護職(ジョブ)召喚士〜虐げられた少年は世界を救う〜 咲華 @sakuha398
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