第6話 初めまして❻
おばあちゃんはイトシラさんを、
いつも我々が使っている部屋に通した。
そしてイトシラさんに
「どうぞ、そちらにお座り下さい。」
と座布団の上に座る様に促した。
イトシラさんは、少し戸惑った様だが、
大人しくすぐに言われた場所に座った。
部屋に入る直前におばあちゃんは僕に
「千尋、急いでお茶の用意を。」
と小さな声で指示を出した。
僕は急いでその通りにお茶を用意する。
しばし、沈黙が流れる。
すると突然、おばあちゃんが口を開いた。
「改めまして、石徹白さん、この度は千尋が
大変ご迷惑をお掛けしました。」
見なくとも分かる。今この方は、
僕の為に頭を下げてくれているのだ。
いつぶりだろうか、と思いつつも、
今まで沢山お世話になったこの方に
頭を下げさせている自分が恥ずかしく、
どうしても嫌になった。
「いえいえ!とんでもない!
頭を上げてください。
まぁ、ちょっと驚きはしましたが、
大丈夫です。
もしかしたら、私が何かしちゃったのかも
知れないですし…。」
(あぁ、なんて優しいのだろうか、
この少女は…。全ては僕の勘違いで、
ただそれに巻き込まれてしまっただけだ
と言うのに…。)
「まぁ、貴女に非は有りませんよ。
全てはそこにいる千尋の非でございます
から、そんなかしこまらないで下さい。」
(本当にその通りです。)
「ほら千尋、いらっしゃい。」
「あ、はい!」
おばあちゃんに呼ばれて僕は、
急いでお茶を注いだ湯呑みを持って、
イトシラさんとおばあちゃんの元へ行った。
「どうぞ、宜しければ。
粗品ではございますが、
お召し上がりください。」
「千尋。」
「!…。」
(やっぱり、怒っているよね…。
当然だ。この子にも本当に申し訳無い。
きちんと非礼を謝ろう。)
「この度は、本当に、
申し訳有りませんでした。」
「申し訳御座いませんでした…!」
「いえいえ!大丈夫です!
え〜っと、ツモリ君…も、
何か…きっと理由が有ったんだよね?」
(まさか、こんなあっさり
許そうというのか?
自分で思うのもなんだが、
それはあまりよろしくないと思う…。)
「いや、理由が有ろうが無かろうが、
イトシラさんに失礼な事をしてしまった
のは、事実だから。
理由の如何を問わず、ダメな事はダメだよ。
しかも、イトシラさんを
怖がらせちゃっただろうし…。
だから、御免なさい。」
「この子の言う通りです。
本当に申し訳ございません。」
「お二人とも頭をお上げ下さい。
大丈夫です。私、気にしていませんし、
それに、完璧な、間違いを犯さない人は
いません。私も、思わず…!
なんて事、よく有りますから。」
「そうですか…、お優しい御心に
感謝致します。有難う御座います。」
(おばあちゃん!?そんな、きっと
僕らに気を使ってるだけだって…!
それをそんな…受け入れちゃダメでしょ!)
「でも…イトシラさんに
僕は少なからず迷惑を…」
そう言いかけた瞬間、冷たくて暖かい何かが
僕の手を包んだ。
「ツモリ君、私が良いって、許すって
言ってるから、もう、いいの!ね?」
(イトシラさん!?手、手…!!)
「そうだよね、ごめん、ありがとう。」
こちら忘れ物販売所 波須野 璉 @sakazuchi
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