魔法使い
此糸桜樺
魔法使い
「私、魔法使いになる!」
「そう、ガンバッテ」
「今、心からの激励じゃなかったでしょ」
「そんなことないよ。くだらないなあ、なんて一切思ってないし」
「嘘だー!気持ちこもってなかったもん」
花菜は不満そうに頬を膨らませた。
「……もう、当たり前でしょ。『魔法使い!?いいね、それ!』なんて誰が言うのよ」
「やっぱり!あれ……?今、私、梨央の考えていることが分かった……」
「ん?花菜、嫌な予感がするんだけど」
梨央はゆっくりと花菜の方へ顔を向けた。
花菜は、何か真剣に考え込んでいる。しばらくすると、パアッと顔を輝かせた。
「私って魔法使いかも!」
「やっぱりそういう考えになるか」
梨央は、がくっとため息をついた。
「え、分かってたの?」
「そりゃあ、花菜が考えることっていったらその程度でしょ」
「もしかして、梨央も魔法使い?」
花菜が嬉しそうに梨央の手を取ろうとする。
「馬鹿なの?」
「馬鹿と天才は紙一重!!」
「あんたが言うな」
「この才能を生かさなきゃ!」
「魔法じゃなくて?」
「地球は駄目だね」
「なんで?」
「頭の固い人が多い」
「頭のおかしい人も多い」
すると、花菜は意気揚々と叫んだ。
「土星だ!」
「ガスの中に突っ込むのか」
「あ、駄目だ。―130度のアンモニア結晶でできた雲に突入することになるんだった」
「おお、そうなんだ……。よく知ってるね……」
急に現実的だな……と梨央が困惑していると、再び花菜は意気揚々と叫んだ。
「太陽だ!」
「炎の中に突っ込むのか」
「あ、駄目だ。太陽は、核融合反応でエネルギーを作り出しているから表面温度6000度くらいあるんだった」
「おお、そうなんだ……。よく知ってるね……」
再び梨央が困惑しながら言うと、またもや花菜は弾んだ声で叫んだ。
「月だ!」
「月にウサギはいないよ」
「え、まだそんなこと信じてるの?」
「花菜が言いそうだったから先に忠告しておいただけ」
「かぐや姫でしょ!」
「そっちかい!そして、急にメルヘンの世界に戻った」
梨央は呆れながら腕を組む。
「よし決めた!」
「ようやく諦めた?」
「銀河系から出よう!もっと広い世界へ行くの!」
「どうやって出んのよ」
「銀河鉄道に乗るんでしょ!銀河鉄道の夜、読んだことないの?」
「読んだことはあるけど、そういう話じゃなくない?まあ、ご勝手にどうぞ」
「梨央も行くのよ!」
「断る」
梨央に一緒に行くことを拒否され、花菜は不服そうに言った。
「なんでよ?」
「馬鹿と一緒にされたくない」
「馬鹿は伝播していく」
「最悪だね」
すると、花菜は急にハッとした表情になった。
「あっ!」
「なに?」
「宇宙服!」
「もはやそれは、魔法使いじゃなくて、宇宙飛行士の考え方だな」
「莉央、持ってる?」
「何言ってんのよ」
「仕方がない。父上から借りよう」
「持ってんのかい!」
花菜は仕方がなさそうにため息をついた。お父さんの宇宙服臭いんだよな、と小声でぼやく。すると、花菜はまたハッとした表情になった。
「あっ!」
「なに?」
「ロケット!」
「銀河鉄道はどうなったのよ」
「莉央、持ってる?」
「持ってる」
「え、持ってるの!?」
「持ってるよ」
「マジで!?」
「マジで」
「行けんじゃん!!」
「行けるね」
梨央が平然と答えると、花菜は頬をピンク色にして喜びを爆発させた。
「やったあぁぁぁ!!」
すると、花菜が突然、押し黙った。悲しそうにうつむき、眉をへの字に曲げ、明らかに困った顔をしている。
「どうしたの?」
梨央が不思議そうに尋ねると、花菜が申し訳なさそうにおずおずと言った。
「……梨央。ごめんね。今の技術では、他の銀河へは遠すぎて辿り着けないの」
「うん、知ってた」
「だから……とても言いづらいんだけど……諦めて!」
「いや、分かってたから。ていうか、もともと行く気ないから」
「本当に申し訳ない!!」
「あのねえ……」
「だから、私、一人で行ってくる!!」
「は?」
「じゃあね!!」
「は?」
スッ――――――――――――
「消えた!?」
どうやら、花菜は本当に魔法使いだったようだ。
魔法使い 此糸桜樺 @Kabazakura
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます