2年+1年+1年の次へ
役員は、一人で会議室に残って考え込んでいた。
人助けになる事業だと思っていたが、必ずしもそうではないらしい。社会的な理解促進と法整備に向けた活動を更に推し進める必要があるな。もう目の前に技術はある。規制でがんじがらめにされてはならん。
次に役員は、自分の家族に思いを馳せた。
……うちの妻は反対しなかったがな。
最愛の一人娘を失ってから、最近ようやく立ち直ってきた妻。だからこそ、クレームが入ろうとも、彼はこのプロジェクトを自らの手で進めたかった。これまでの苦労が思い出される。
娘が亡くなってから、はや4年。当時は役員に就任したばかりで娘とあまり会えなかった。その後悔にどれほど苛まれたか。だからこそ、テストケース1に自ら志願したんだ。……そう、妻のためなんて言いつつ、一番望んでいたのは自分じゃないか。
彼はこの4年間、初めに2年間の基礎研究を経て、そこから1年、また1年と、自分だけでなく他の利用者も募ってテストを繰り返してきた。
ここでまた彼は思い出した。
そう言えば、テストケース3の男性、奥さんの復活から1年+1年と数えていたな。きっと、奥さんとの日々を噛みしめながら毎日過ごしていたんだろう。その流儀に従えば、私もやはり2年+1年+1年が経過したわけだ。
しかし、彼にはテストケース3の男性のような満足感はまだなかった。
会社を出てまっすぐ家に帰る。
妻と娘が待っている家に。
帰りながら、また取り留めのない思いが次から次に去来する。
なぜ電話の男は、娘さんの復活を喜べないんだろう。そりゃ娘そのものではないかもしれない。でも……人は何かにすがりたいものじゃないか。
自宅に着きドアを開ける。奥からパタパタとスリッパの音がすると、ショートボブの髪の毛を揺らしながら、娘が笑顔で出迎えてくれた。
不自然な動きも表情もない。過去の技術では絶対にありえない動作。飛躍的進歩。人間そのものと言っても過言ではない。
顔も仕草もよく似ていると思いつつ、彼は改めてしげしげと娘を見た。しかし実を言えば、本当のところは似ているのかどうか誰にも分からなかった。娘が実際に亡くなった年齢ではなく、生きていたらという仮定で実年齢に合わせた結果、今は亡くなった頃より4歳ほど上の年齢に設定しているからだ。この点、亡くなった年齢で固定した他のテストケースとは違っていた。
もし生きていればこんな風に成長するのではないか。その計算に従い、1年、また1年と経過する度に、その体を取り換えた結果がこれだった。
今、彼女の手足はスラッと伸び、10代後半の少し大人びた印象の少女となって目の前にいる。
ずっと見たかった、成長した娘の姿がそこにあった。
娘は言う。
「おかえり、お父さん。どうしたの? 黙って。何かあった?」
彼女は少し首を傾げ、また髪の毛が揺れる。表情に憂いがあった。
彼は答える。
「いや大丈夫。ただいま、いま帰ったよ」
これからも、何度でもただいまを言えるだろう。
それぞれの2年+1年+1年の結論 令月 なびき @24solarterms
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