散文詩 伝うもの

散文詩 「伝うもの」


言葉で伝うもの

何処までだろうか

この線と色で届くのは

何処までだろうか


問うような先まで行ってみたい


重低音域の調律が崩れた

グランドピアノがある部屋は

祖父の書斎


埃を掃ったら

古い広辞苑の赤茶色の背表紙

まるで全て知っているみたいな顔

貫禄があるかのように棚に居て

私の広辞苑と同じじゃない


調律が狂ったピアノで

モーツァルトのトルコ行進曲をスローテンポで

弾いた

精密な設計士のようなモーツァルトの

苦い表情が思い浮かんでくまま

鍵盤を弾いた


音で伝うものは、届くものは

どこまでだろうか

いつからだろうか

もうずっと遠い日から問い続けて

私も歳を重ねました

故人の祖父へ

この音は伝いましたか


太陽が黄色い窓の外

学校帰りの小学生が明るく

笑っている声が

カーネーションのように華やかに

ここに届いて 響く

たおやかに


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

散文集 だよーん。 琴の音さくら @tasc07

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ