もしもし私、マリーさん。今、私を追放したパーティーの前にいるの。
桜良 壽ノ丞
もぅマヂ無理。パーティーとゎかれた。
今日、言われたんだ。突然だった。
5年間一緒にやってきたパーティーだったのに。
最近、特に怪我とかしてないんだって。
強くなったから、補助とか要らないんだって。
最悪の場合、ポーション飲むから治療とか要らないんだって。
でも、念のためにもっと強い仲間を入れるんだって。
「悪いな、マリー。お前が嫌で抜けてもらう訳じゃないんだ」
ボサボサの黒髪に大きな目、小柄だけど使う武器は1メータ(1メータ=100セータ=1メートル)もある大剣。そんなリーダーの青年チタ。あたしの事は嫌じゃないんだって。
「ああ、この先は魔族の棲み処への入り口だ。治癒術の腕は認めてるけど、お前は俺達より体力がないから」
長い赤髪に切れ長だけど優しい目の青年。だけどその優しい目で心無いことを言っちゃう攻撃術士のベリョーフ。どうせなら体力ある男の方がいいんだって。
「それに、もし捕まってあんなことやこんなことをされたら……お前にも申し訳が立たない」
灰髪に面長の顔、他所のパーティーからもイケメンと評判の槍術士エリスタ。あたしが魔族に
「すまない、あんたはもっと安全な旅をするパーティーに移ってくれ。あんた美人だから、きっと引く手数多だ」
短い金髪にあどけない可愛い顔の少年、銃剣士のイヴァノ。あたしをこのパーティーで幸せにはしないんだって。他のパーティーで幸せになれって。
「じゃあ、またどこかで」
そう言ってチタがあたしに手切れ金を渡す。麻袋に入った紙幣と硬貨があたしの価値だったってこと。あたしは金で買える女だったってこと。あたしは遊びだったってこと……。
「これで……お別れなの?」
コンクリート打ちっぱなしの床、木製のカウンターテーブル。5人パーティー制の旅人を意識してか、大きめの6人がけのテーブル席が3つ。ここはいつも5人でご飯を食べに来ていた喫茶店。
今日はあたしを1人残して、4人で出て行く。
4人は振り向かない。みんな、もうあたしのことは要らないんだって。きっと、向かいの旅人ギルドでこれから新しい男を探すんだ。
「あんたら、仲のいいパーティーだと思ってたんだけどねえ」
「あたしも、そう思ってました……」
白髪で小柄、いつもニコニコ優しいマスターが慰めてくれる。これは現実なのかな。あたし、本当に捨てられたのかな。
「みんな体力がある男が好きなのかな……男がいいなら、あたしに勝ち目なんかないよ。体力のないあたしじゃ満足できないよね」
「お嬢ちゃん?」
「あたしのこと、遊びだったんだ。本当は男の人が良かったんだ。あたしは辱めるに値しないって、あたしは金で買っただけの女だって」
「お嬢ちゃん!?」
悲しい。つらい。こんな思いをするなんて。
可愛くお洒落でいようって、あたし凄く頑張ったのに。魔法の杖だって、いっぱいデコったのに。
不細工な女を囲ってるって言われたらみんなが可哀想だし、無能だと迷惑掛けるし……だからあたしいっぱい頑張ったのに。
回復のヒールにもチョコレート風味を足したのに。
水魔法のアクアもちょっと塩を足して清めたのに。何が駄目だったの……?
「お嬢ちゃん、あんた若いし、美人さんなんだから。気を取り直して良いパーティーを探しな。みんな、あんたを思っての決断だろう」
「あたしを思って……?」
どういうこと? あたしを思ってるなら、あたしの身も心もどこまでも一緒だよ?
なんであたしを置いて行くの……いやだよ、置いて行かれるの悲しいよ。
「みんな、大切なあんたを傷つけたくないのさ。いい仲間じゃないか」
「好きだけど別れるってコト?」
「ま……まあそういうところだろうな」
「あたしを幸せにする自信がないってこと? 本当は男よりあたしがいいってこと?」
「ま、まあ……彼らも女の子がいた方が本音では嬉しいだろうね」
好きなのに結ばれない恋人みたいな状態、それがあたしたちの関係ってこと?
それなのに、あたしはみんなが言う通り他のパーティーに入っちゃっていいのかな。そんなの裏切りだよ、あたし、他のパーティーじゃ幸せになれないよ……。
みんながあたしを好きなら、あたしもずっといつまでもみんなを好きでいるから……。あたし、みんなを裏切ったりしないよ。
「見た所、大金を残してくれたようだし、準備を整えて新しい道に進まないと」
「あたしは金で買った女じゃなくて、これはあたしのために……?」
「そうとも。私はね、今まで色んなパーティーを見てきたんだ。仲の悪いパーティー、戦いで仲間を失ったパーティー、希望に満ちた表情で訪れるパーティー、色々だ」
「あたしたちは……?」
「あんたらは仲が良くて、強そうなパーティーだった」
マスターがどこか名残惜しそうな表情で店内を見回す。あたしがみんなの背中を見送ったのと同じニオイがする。
マスターも誰かを男に盗られたのかな……。
「実はね、歳だしそろそろ店を閉めようかと考えていてね。もうあんたらのようなパーティーも見納めになると思っていたところだった」
「お店、閉めちゃうんですか」
「ああ、今月いっぱいかな。なーに、また新しい店が入って、繁盛するだろうよ」
みんなとの思い出の場所が1つ消えてしまう。そんなのマジ無理。悲しい。ツライ……。
「あんたが引退して店をやりたいって言うなら、譲っても構わんがね、ハッハッハ!」
「……えっ?」
あたし1人じゃ旅には出られない。でもあたしはどこのパーティーにも入りたくない。あたしがいられる場所はあの4人のパーティーの所だけ。
今はどこのネズミの骨か分からない男に気移りしていても、あたしは信じて待っていたい。
やっぱりお前が1番だって。他の男じゃ駄目だって。
それなら、やるべきことは1つしかないよね。
「あたし、このお店を引き継ぎたいです。みんながあたしを迎えに来るまで、ここで待っていたい」
「え? お嬢ちゃん本気かい?」
「あたしの思いは本物だから。あたしはみんなのことを信じてる」
「冗談のつもりだったが……しかし、私もこの店のものを売って生活の足しにしなくてはならんし、そのままはいどうぞという訳には」
あたしはお金が欲しいんじゃない。それに、思い出の場所は1つでも多く残しておきたい。だから……
「このお金があれば足りますか……?」
そしてあたしはギルドの前の喫茶店を買った。お金も半分残った。
通りに面した大きなガラス窓からは、ギルドの入り口がよく見える。
ふふっ、今日も来てる。大丈夫だよ、あたしいつも見てるから。
魔族の棲み処に1番近い町。
その町の旅人ギルド。
そして、その目の前の喫茶店。みんなは絶対にこの前を通らなきゃいけない。
ギルドから出て来る時は必ずこの店が目に入るの。
これで、あたしはいつでもみんなを見守っていられる。あたしの心はいつもみんなと一緒。あたしのために別れるなんてつらすぎるでしょ?
でも心配ないよ、あたしはここにいる。
大好きなみんなをいつも見てるから。
喫茶マリー。
コーヒーのようにほろ苦い青春のような存在に、あたしはなりたい。
あたし、見てるよ。いつでも待ってる。
今日はちょっと鎧の傷が多いね。いつも見てるから、分かるよ。
あたしの代わりの男じゃ駄目だって、早く気付いて。あたしはいつも見てるよ。
* * * * * * * * * * * * * * * * * *
……これ、続いてもいいのかな?
良さそうな雰囲気を感じ取ったら続くかもしれません(笑)
もしもし私、マリーさん。今、私を追放したパーティーの前にいるの。 桜良 壽ノ丞 @VALON
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