第5話
作者です。ストックが無くなったので執筆期間に入ります。ここまでお付き合い頂いてとても嬉しいです!少し空きますが楽しみに待っていてくださるとありがたいです!
朝、目を覚ます。
目覚めはそこまでいい方では無いため、前まではじいちゃんに起こしてもらうことが多かったが、今では一人で起きられるように努力している。
何とか布団の魔力に抗い体を起こすと、
「···まだ眠い。」
隣からまだ眠そうな声が聞こえる。
「寝てていいから。」
ご飯ができるまで時間はある。その間くらいは寝かせてあげようと優しく声をかけた。
そして、僕はこの後台所に向かって朝ご飯を作る。
これが最近のルーティ···
「ちょっと待って!だから、何で僕の隣で寝てるの!?新しい部屋あげたよね!そこで寝てって言ったよね!」
ドタドタと足音を立てて部屋に戻り、布団を引き剥がしてそう言う。
「言ったっけ?」
「言ったよ!それも毎日!なのにどうしてここで寝てるの!?」
「温かいから。」
「だからってここで寝ないで!もし寝るならせめて猫の姿になって···。」
「なれない。」
「え?」
こちらとしても、できるだけ紫の言うことは聞いてあげたいがさすがに一つの布団をつかって二人で寝るのは聞き入れることは出来ない。せめてもの妥協点として猫の姿なら良いと行ったのだが、返ってきたのはまさかの言葉だった。
「だって、あっちが本当の姿なんだよね?」
「そう。だけど、結んだ契約がきれるまで多分戻れない。あの時、魂を共にするって言ったから今の私は妖怪のままだけど魂が縁側に寄ってるから人の姿から変えられない。」
「何を言ってるかよく分からなかったけど、そういう契約だったんだ···。じゃあ、契約がきれるのっていつなの?」
「よく分からない。予想になるけど、どっちかが死んだ時?」
「···どうするの?」
「私は別に困らないし、このままでもいい。」
「···でも、自分の本当の姿に戻れないんだよね?想像もつかないけど、それってとても怖いことだと思うんだ···。本当に紫は大丈夫なの?」
何でもないように言う紫を見て、僕は何とも言えないような気持ちになる。それで本当にいいのかと思ってしまう。聞いたところで何も出来ないけど、一人で抱え込むようなことはして欲しくなかった。
「まぁ、少しだけ不安はある。私は猫又であることに、お父さんとお母さんの娘であることに誇りを持ってるから。」
(やっぱり···。)
あの時のことを思い出す。契約を結ぶのがあの時の最善だったと思うけど、他に何かあったんじゃないかと後悔する。あの時、僕にも何か力があれば契約を結ばずにたすけられたんじゃないかと心が痛む。
そんな僕を見て、紫は言葉を続ける。
「···でも、私はこの姿も誇りに思ってる。」
「それは、どうして?」
「二人があの戦いを生き残ったという証だから。もしかしたら、二人そろってあの場で死んでたかもしれない。だけど、今もこうして生きてるから私はこの姿のまま。だから私は後悔なんかしてない。縁は後悔してる?」
「僕は···、してる。あの時僕に力があればって思うから。」
「縁は強くなりたい?」
じいちゃんや紫に守られ、今でも自分だけを守るのに精一杯な僕だけど、誰かを守れるくらい強くなりたいと思う。だから、
「なりたい。」
「私も。私が一人で戦えないせいで縁に背負わせてしまった。」
いつの間にか目の前に立っていた紫は僕の手を握る。
「強くなろう、二人で。今度あんなことがあっても乗り越えられるように。」
「うん···。」
二人でそう誓い合う。
もう後悔なんてしなくてもいいように。
そうしてしばらく見つめ合うが、我に返るとこの後どう区切りをつけたらいいのか分からず、この状態が恥ずかしくなってくる。
「···え、えっと。じゃあ、紫の目標は強くなることと帰る方法を探すっていうのでいいのかな?」
何とか話を変えつつ、手を離す。
「そうなる。とりあえず話を聞けそうな妖怪を探す必要がある。だから、これからも拠点としてここを使うけどいい?」
「いいよ。自分の家だと思って使ってくれていいから。」
「分かった、自由にする。」
「あっ!僕の布団に入ってくるのはダメだからね?」
「······。」
「返事が聞こえないんだけど···。」
「私はもう一眠りするからご飯よろしく。」
そう言うなり、布団を頭から被り寝たふりを始める。今、これ以上言っても仕方ないのでどうしたら紫の侵入を防げるか考えながら朝ごはんの準備をする。
僕たちは家の庭にいた。
じいちゃんの家は昔の名家の名残で随分と庭が広く、蔵も存在している。バスケコートの広さ以上はある庭で僕は紫から妖力について話を聞く。
「まず、縁はこの前の戦いで自分に妖力があることを知った。今もその感覚は残ってる?」
「んー、あるのは何となく分かる。」
「それじゃあ、それを動かすことは?」
「それは出来なさそう。前回は紫が動かしてる妖力に指向性を与えただけだから、まだ自分で動かす感覚が分からなくて···。」
「分かった。縁に関しては、まずそこから練習していく感じで。初めは一人でやってみてどうしても無理なら感覚は私が動かして教える。」
「ありがとう。···でも、一つ聞いていい?」
「何?」
「何でそんな格好なの?」
朝から珍しいのかテレビに張り付いていた。僕が食器を洗い終わって強くなるための方法を聞こうとしたら、なぜかニュースキャスターのお姉さんが着てたスーツと同じスーツを着てる紫が居た。それから、流されるままここにいるがさすがに見過ごせなくて聞いてしまった。
「こっちの服は色々あって面白い。私たちは見たものに変化することができるけど、向こうでは服の種類が少なかったから着物くらいしか着たこと無かった。せっかくだから楽しもうと思って。」
「そ、そっかそれは良かったね。」
思った以上に真っ当で女の子らしい理由に逆に動揺してしまう。
(···でも、彼女なりにこっちを楽しんでるみたいで良かった。)
まだ手がかりすらないが、いつか彼女が帰る時に辛い思い出だけを抱えて帰るのは阻止したい。
(そうだ!)
そこで、僕はあることを思いつく。
「近くに服を売ってるお店がたくさんある大きな建物があるんだけど、行ってみる?」
その言葉に紫は敏感に反応する。
「···!行く!」
どうやらお気に召してくれたようだ。
「じゃあ、昼ごはん食べたら行ってみようか。でも、鍛錬もしっかりしてからね?」
「もちろん。とりあえず私が妖術を使えるようになった説明もしておく。あと、私の妖術の追加説明も。」
「うん、よろしく。」
またしても紫先生の授業が幕を開けた。
「私たちのような後天的に妖術を得た妖怪は外付けで妖術を扱う器官を持ってる。それ一つが妖力を決まった妖術に変換するわけだけど、私が持ってた妖術は私が持つ妖力では足りないほど強力なものだった。」
「自分で扱えない力を持ってたってことか。」
「そう、あの時も言ったように特定の妖術に決まってないのが私の妖術ということ。そこで、縁と契約を結んで私よりも膨大で濃密な妖力を使ったことによって妖術が使えるようになった。」
「なるほど。で、僕の妖力が膨大なのは分かったけど濃密なのはどうして?」
「前も言ったように妖力は人が持つ恐怖という感情の上澄みだから、その根源たる心の近くに妖力があることで質が上がってるんだと思う。」
妖力にも質があるのかと驚いていると、いつの間にか先の目標も見据えた訓練を指示される。
「縁は妖力を操って自分だけであのお面が出せるように頑張る。私は上手く妖術を扱えるように頑張るということでいい?」
「あ、うん。それでいいよ。あれ?でもそれだとまた僕から紫に妖力が流れてるからどっちかの鍛錬をしようとしたらどっちかができないんじゃ?」
紫の説明だと、僕の妖力がないと紫は妖力を使えないし、紫が妖術を使えば僕から妖力が流れていくから僕一人で妖力を操るという鍛錬が出来ない。
「まだこの前もらった妖力があるから大丈夫。」
「ああ、ストックできるんだ。」
「うん、そうみたい。···そうだ、言い忘れてたけど縁が出してたお面は私の妖術と繋がってて同じ妖術が使えるんだと思う。私の方が本来のものだから私が妖術を変えたら縁の方も同じのに変わるから気をつけて。あと、変えるには一度妖術を使わないといけないってルールもあるから。」
「僕の方も一度は使わないといけないのかな?」
「それは大丈夫。私だけでいい。」
「分かった。」
それから僕は自分の妖力を操れるように集中した。紫も色々試しているようでたまに澄んだ鈴の音が聞こえてきた。
集中してやってたためどれくらいの時間が経ったか分からない。そして、訓練も行き詰っており、
(どうやって動かしたらいいのか分からないなぁ。さっきも言ってた通り、ちょっと紫に動かしてもらおうか。)
紫に声をかけようと瞑っていた目を開くと、紫が何か手に持ってるのが見える。
「それは泥団子?」
幼稚園の時に作ったような泥で作った球だったためそう尋ねる。
「合ってるけどちょっと違う。五行のうちの土が出たから何ができるか色々試してたところ。縁はどうしたの?」
「妖力を動かす感覚が分からなくて、前みたいに動かしてもらってもいい?」
「いいよ、ちょうど私も妖力が無くなりそうだったし。」
そういうや否や、先程までピクリとも動かなかった妖力は動き出した。
「うーん、やっぱり分からないなー。」
自分の中のものを動かすなんて経験はなく、実際に動かしてもらっても感覚が掴みづらい。
「人間にとって妖力は必要なものじゃないからかもね。妖怪にとっては生命線とも言えるものだから、生まれた時から何となく分かってる。」
「確かに、人間が生まれた時から呼吸の仕方を知ってるのと同じか···。」
僕が頭を悩ませていると、家の柱にかかっている時計が12時を知らせた。
「そんなに時間が経ってたんだ。」
「ご飯の時間。」
目の色を変えた紫はご飯を作る僕よりも早く家の中へと入っていった。
「そんなに急いでも僕が作らないと食べられないのに···。ちゃんと手を洗って待っててよー!」
声をかけて僕も台所へと向かった。
そして今、僕たちは街中を歩いている。もちろん、約束通りデパートを目指してだ。
(やっぱり人通りが多いな。)
今日がゴールデンウィーク真っ只中ということもあり、周りは多くの人で賑わっている。普段ならこれだけの人がいたら少し大変に感じるが、誰もいない商店街を経験したせいか人の声や姿に安心感を覚える。近くには遊園地などもあり、親子連れも目に入った。それをどこか羨ましいと思いながら紫から目を離さないように道を進む。
紫について言えば、傍目から見ても分かるくらい楽しそうだ。今の格好は朝のようなスーツでは無く、白を基調とした膝丈のスカートに上はピンク柄のニットベストをカッターシャツの上に羽織っている今どきの女子中学生のような格好をしている。
そんなことを考えていると、
「縁、まだ?」
「もうちょっとだから。」
まだ着かないのかと急かしてくる紫を宥める。
そうしていよいよ建物が見えてきた辺りで、
「ねぇ、縁。あれ何?」
「ん?あれがデパートだよ?」
「違う、あそこに立ってる人。」
紫がデパートのことを言ってるのかと思ったがどうやら違うらしい。そう言いながら指さすところに僕も目を向けると···。
『フリーハグ 注:女性限定』と書かれた看板を地面において、目隠しをしつつ手を広げて立っている中学生くらいの男がいた。
それを見て僕は目を見開く。
(まさか、こんなところにいるなんて···。絡まれたらめちゃくちゃめんどくさい!早く逃げよう!)
「紫、あれは触れちゃいけないものなんだ。早くデパートの中へ入ろう。」
「ん、分かった。」
(まだバレてない。このまま突っ切って···。)
「このまま突っ切ってどうするんだ?」
「あいつから逃げ···ない、と···。」
聞き覚えのある声が聞こえてきて、そちらへと顔を向ける。すると、そこにはさっきまで目隠しをして立ってたはずの男が目の前にいた。
「な、何で気づいたの?」
「俺が親友の足音を聞き間違えるわけないだろ?」
「よりにもよって何で足音をチョイスしたの?他にもあったよね?」
「照れんなよ、俺たちは互いに足音を聞かせ合った仲だろ?」
「どんな仲なの···。」
すっかりと相手のペースに飲まれる。すっかりと置いてけぼりにされていた紫は僕の腕を引っ張りながら、
「誰?」
その声で自称親友の男は紫に気づいた。
「なっ!お前、こんな美少女どこで引っ掛けたんだよ!?どこにそんな穴場スポットが···。俺のリサーチでもそんな美少女が現れる場所は存在しないぞ!」
「引っ掛けたって···。」
「くっ、まだ俺にもチャンスはあるはず。過ごした時間は負けるが、愛の前に時間など関係ない!」
そう言うなり、馬鹿なことを言う割に整った顔をしているそいつはサラサラの髪を整えたかと思えば、紫の前で跪き胸に手を当て声をかける。
「どうも、お嬢さん。俺の名前は小野崎(このざき)翔。お嬢さんの名前をお聞きしても?」
「紫。」
「何て美しい名前だ!遥か昔には高貴な色として扱われた色が名前とは···。名は体を表すと言いいますがそれは事実だと学ぶことが出来ました。良ければそのお礼として、そこのカフェでも···。」
「行かない。」
「では、何か欲しいものがあれば俺が案内しますが?」
「縁がいるからいい。」
「そうですか。お時間を取らせてすみません。また何かあればお申し付けください。」
紫の対応を見て無理だと諦めたのか翔は僕の方へと顔を向けて、
「今回は負けを認めるが、俺は諦めないからな!次に会った時には縁から紫ちゃんを奪い取ってみせる!」
「はいはい。」
「くっ、眼中に無しというわけか···。」
かませ犬風に悔しそうにそう叫ぶが、正直言って翔の言うことは八割方嘘なので相手にしていたら馬鹿を見る。
「もう少し相手にしてくれてもいいだろ?」
「さっきは乗せられたけど、疲れるだけだし嫌だよ。」
「ははは、そうか。」
「どうしてそこで笑うの?」
突然笑いだした翔を不思議に思い、その理由を聞く。
「前に見た時は死にそうな顔をしていたからな。以前と同じようになった縁を見て安心したんだよ。」
「···そうかな。」
「そうだよ、何かいい事でもあったか?」
「まあ、ちょっとね。···心配してくれてありがとう。次からまた学校に行くから。」
「お前がいないとつまらないからな、学校で会えるのを楽しみにしておくよ。」
不意に翔は拳を突き出してきた。少し照れくさかったが、僕は自分の拳をそれに当てた。
「だが、親友のお前でも紫ちゃんは譲らないからな!」
「もういいから···。」
最後で台無しにしてくる翔を見て苦笑いする。
「じゃあ、俺は日課に戻るから。紫ちゃんもじゃあね。」
「あんなこと毎日やってたんだ···。」
友人の衝撃の告白に戸惑ってるすきに翔はまた目隠しをして手を広げ始めた。
「はぁ。行こうか、紫。」
「あの人は縁の友達?」
「うん、何だかんだ小学校からの付き合いなんだ。」
「ちょっと胡散臭い。」
「ふふ、確かにそうだね。だけど、悪いやつじゃないんだ。」
僕がまた目隠しをしだした翔を見ていると、
「縁のあんな肩の力が抜けた姿初めて見た。」
「え?」
紫はボソリと呟いたのが耳に入る。
「私はあの人と仲良く出来ない。」
「えー!?」
初めはあんなことを言ったが、何だかんだ翔が良い奴だってことは知ってるので友達同士、二人とも仲良くはしてもらいたいんだけど、紫は何がお気に召さないのか少しだけ機嫌が悪そうだ。
「早く行こう。」
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
唐突に腕を掴まれ、そのまま引きずられるよつにデパートへと向かった。
後ろからの視線に気づかず。
右目だけ目隠しをずらしてデパートへと入ろうとする二人を後ろから見つめる。そして、雑踏に紛れて消えてしまえそうなほど小さな声で呟く。
「猫、か···。」
その瞳は確かに紫が映っていた。
拾った猫は猫又でした〜気づいたら家に友達(妖怪)がたくさん住んでます〜 @luukii
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