感電ダンス

浅瀬

一、




 二つ隣の駅までバイトに向かう途中、僕がいつも横切る公園で誰かが踊っていた。


 噴水前のベンチにスマホを置いて、大音量で音楽を流しながら。


 よく分からないダンスだった。

 ブレイクダンスのようでカポエイラのようで、全然違う。タップをふんだんに入れながら、真剣な顔つきで、足元を注視しながら踊っている。


「やべ、遅れる」


 思わず足を止めていた自分に気づいて、僕は歩き出した。


 一歩、踏み出した時のことだ。


 びりびりっと足裏に電流を感じた。


「あっつ!?」


 足裏から駆け上がる電流に、ぶるぶるっと脳天が震える。体から力が抜けて倒れ込む。


 地面がだんだん近づくのがやけにゆっくりに感じた。


 目が覚めたとき、打ちつけたらしい肩や腰や耳が熱を持って痛かった。


 ベンチに僕は横にされていて、目の前にはまだ踊っている誰かがいる。


 華奢で背が高く、短髪で浅黒い肌。

 性別のはっきりしないその誰かは、振り返った。


 深い色の黒目に射抜かれて、日本人ではないのかもと思った。


「具合大丈夫?」


「……体が痛いです」


 踊っていた人は日本語を話した。


「君さ、女の子を振ったよね?」


 断定的に言われて、びっくりした。

 だって思い当たることがあったからだ。

 たしかに一週間前に、バイト先の歳上の先輩から付き合いたいと言われていた。


 でもそれは「三島くん彼女いないよね? あたしでよくない?」という軽いノリでしかない。


「なんで分かるんですかっ?」


「うん、ふふ」


 声を聞いても性別がはっきりしないその人は、首を振って汗を振り払いながら笑った。


「この踊りはね、女の子を振った奴が痛い目を見る、呪いなの」

「のろいっ?」


「そう、うちの国の、とある島の住人だけに伝わる呪いの舞踊。昨日、妹が振られて帰ってきてね。ひどい振り方をされたらしいから、こらしめたくて」


 にこっと笑う。


「君も気をつけて。振るのはかまわない、ただ誠実にね」


 そう言い、スマホの音楽を止めてその人は公園を出て行った。


 僕は呆然としながら公園の時計に目をやる。

 今からじゃ間違いなく遅刻する。

 鞄の中で僕のスマホが鳴り出した。


 取り出さなくても、相手は先輩であるような気がした。

 きっとこの話をすれば、都市伝説やヒトコワが好きな先輩は喜ぶんだろうな、なんてことを僕はぼんやり思っていた。

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感電ダンス 浅瀬 @umiwominiiku

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