第11話 勇者と破綻者(戦闘)
「お久しぶりねぇ・・・ゆ、う、しゃ、さ、ま♡」
破綻者がいやらしく、誘うように、色っぽく前傾姿勢になり勇者に投げキッスをする。
「・・・そうだね。」
対して勇者はいつでも武器、魔法、格闘、全てを行えるような態勢で決して油断していない。
その瞳に宿っているのは明確な敵意。
ダンジョンを攻略してきたときの瞳とは全くの別物。
普段の変態勇者のほうがましに覚えるほどの戦慄。
「ゆ、勇者よ、逃げないのか?」
恐る恐る質問してみる。
「残念だけど逃げられる相手じゃないよ。」
あの冗談めいた口調は消え、一言一言重みがある。
「そんな硬くならないでよ~。私とあんたの仲でしょ???」
破綻者が足を組み替えながらゆっくりと背筋を元に戻す。
「・・・。」
勇者はこれ以上にない集中を見せている。
破綻者の一挙手一投足見逃さないようにというのが伝わる。
「おい勇者どうすんだよ。これアタシでもきちぃだろ。」
「あらぁ、通用するかもしれないわよぉ?」
挑発するように破綻者が話しかけてくる。
「うるせぇ!!!」
闘士がしびれを切らし遂に殴り掛かってしまう。
5mは離れていただろうか。
だが、その距離を一瞬よりも短い時間で詰める。
「あら、案外遅いのね。」
だが余裕で躱されていた上に、殴り掛かったこぶしをぎっちりと握られていた。
見えなかった・・・。
このアタシが動き見えなかっただと?
嘘だろ・・・。
「がら空きじゃん。」
「あら危ない。」
勇者の攻撃を躱すため距離を取る。
「今の攻撃ってさぁ、この闘士ちゃんを巻き込まないためにゆっくりだったわね?」
勇者が少し眉をひそめる。
嘘だろ・・・アタシがいたから手加減したってのかよ・・・。
魔法属性も込みの攻撃だったのか?
「で、続きやるのやらないの?」
勇者が破綻者をにらむ。
「そうねぇ・・・。」
ゆっくりタイミングを計るように歩いたと思ったら一瞬で姿を見失った。
気が付いた時には背後から抱き着かれ、のど元に刃を突き付けられていた。
「期待外れねぇ~・・・。勇者も闘士も思ったほど強くないじゃない。」
「まぁ私たちは3人1組のパーティーだからね。」
勇者がそういった直後、天からひし形の光が破綻者にノータイムで襲い掛かる。
「ま、あんたの性格からして絶対弱いけど目障りな方に行くと思ってたよ。」
「間に合って・・・よかったわ・・・。」
そこには息を切らした聖女の姿があった。
勇者を先頭に、解放された闘士が右側、聖女が左側、魔王ちゃんは真ん中で守られる陣形を取る。
「・・・確かに効いたわぁ。少し仕返ししちゃおうかしら。」
破綻者の目が淡く赤く光る。
身構える勇者たち。
「あ、ああ、あぁあぁぁあああ!!!!!」
急に叫びだした魔王ちゃんが頭を抱え絶叫する。
「魔王ちゃん!?」
心配した勇者が真っ先に駆け寄る。
「よるなぁ!!!!!」
魔王ちゃんと思えない声に3人がびくりと固まる。
「何をした!!」
勇者が破綻者をにらみつける。
「幻覚魔法よ♡こんなに効いたのは久々ね♡」
地面に落ちていた小石が震え始める。
「おい・・・これってまさか・・・。」
「えぇ、まずいわね・・・。」
「おい勇者落ち着けって。魔王ちゃんはまだ生きてる。とっととずらかろうぜ。」
そんな闘士の声がまるで届いていない。
特殊自己状態異常。
ガチギレモード。
目の前の敵を屠ることだけに集中する状態。
5分という制約ではあるが己の魔力、格闘技の技術、体力、基礎筋力など3倍まで引き出せる。
ただし、その反動はすさまじく、それこそ「勇者」でないと耐えられないほどに。
「あは♡それが見たかったのよぉ~。」
小ばかにしつつもここからが本番といった具合で狂気に満ちた笑みを浮かべる。
勇者が地面を蹴る。
はやい。
この速度は少し反応が遅れる。
顔面右フックが飛んでくると思い、防ごうと咄嗟に手を挙げる。
だが、それが囮だった。
左回し蹴りがもろ突き刺さる。
内臓がめり込む感覚がし、本能的に距離を取る。
だが即座に詰めてくる。
なるほど・・・これが勇者様の奥の手ね・・・。
楽しませてもらったわ・・・。
設置式の魔法を仕掛ける。
その動作に目もくれず、勇者がまっすぐ向かってくる。
ほんと甘ちゃんなんだから。
設置式の魔法が発動し、あたり一面まばゆい光に包まれる。
「今日のところはこれくらいで勘弁してあげるわぁ。またね勇者様♡」
光が収まった時にはもう破綻者の姿はどこにも見当たらなかった。
そして5分が経過し、勇者に反動が襲い掛かる。
「っつつつつっつはぁ!!!!!!ゲホゲホ・・・おえぇ!!!ヒューヒュー・・・おえぇええ!!!!つはぁぁぁ!!!!」
さっき食べたものが全部出ている。
呼吸もまばらで心拍さえ正常ではない。
全部出し尽くしても今度は胃液が口からこぼれ出る。
聖女が駆け寄ってありとあらゆる回復魔法をかけてくれる。
だがそれでもなかなか収まらない。
それよりも魔王ちゃんは・・・。
「あ、、おう、、ゲホゲホゲホ、、、あんは・・・?」
声にならない声だが闘士が答えてくれる。
「・・・寝てる、、、いや、気絶しているといった方がいいか。すごい汗だくだしな。」
「そ、そっかぁ・・・ふぅ・・・。」
「少し寝たら?」
聖女が顔面蒼白で汗だくの勇者に話しかける。
「うん、、、そうする、、、。」
そういった直後に勇者も気絶するように眠りに落ちる。
「・・・勇者がこんなんになってもあんま通用しねぇなんてな。」
闘士がぽつりとつぶやく。
「・・・破綻者は勇者と対峙るだけでありとあらゆる加護がつきますから。」
闘士が魔王ちゃんを抱きかかえ、聖女が勇者を抱き、宿屋へと向かう。
その足取りと空気は重く、天気さえ重い雲が広がっていた。
蹴られたところの鈍い痛みが響く。
「・・・あんなことできるなんてねぇ、さすが勇者様♡」
もっと余裕だと思っていたがあんな技があるとは、、。
魔王(ロリ)と勇者(三十路サイコレズ) ネルシア @rurine
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