第10話 勇者と破綻者(過去回想)
遡ること20数年前。
ある孤児院にて。
「これから皆の役職鑑定始めますよ。」
1大イベントだと子供たちの騒ぎが大きくなる。
もし、この役職鑑定で有用な役職に就ければ自立できるからだ。
ただし、その中で浮かない顔の少女が1人、勇者が佇んでいた。
まだ役職が決まっていないその子は大きなため息をつく。
そのため息を見かねてか、一人のもっと小さなダークエルフの女の子が近寄ってくる。
「怖いの?」
そう言われははと乾いた笑いが出る。
「だってこんなので自分の将来決まるとかいやじゃん・・・。」
「私は楽しみだよ?」
対照的にその子は目をキラキラと輝かせる。
「この施設から出られるのが?」
ふふとかわいらしく笑う。
「そう!!だって見たことも、
聞いたこともないような場所に自分の足で行けるんだよ!?」
そう熱く語りだすと止まらなかった。
行ってみたい場所。
触ってみたいもの。
食べてみたいもの。
匂いを嗅ぎたいもの。
この世は驚きで溢れていると熱弁する。
勇者はだんだんとその子の熱弁に夢中になる。
そして、その視線はいつしか内容よりも、その子自身の輝きのように感じられ、魅力的に思い始める。
「・・・だから私はすごく楽しみ!!!!!!」
これ以上ない笑顔で話し終わり、そこでやっと我に返る。
「・・・私決めた。」
「え、どうしたの急に?」
その子の手を取り、すくっと立ちあがる。
「私、この世界を平和にする!!そして、ハーレム作る。」
「・・・ぷっ・・・あっはははははは何それ・・・。」
真剣な顔をする勇者と比べ、笑い転げる。
「ちょっと!!私は真剣なんだけど!?」
「ごめんごめん・・・あまりにおかしいなぁと思って・・・ふふ・・・。」
やっとのことで笑いが収まり、そしていよいよ二人の役職鑑定が始まる。
その背後には喜ぶ者、悲しむ者など、様々な表情な子供たちで賑わっていた。
ひょろひょろした背の高い男性、役職鑑定者が一見すると虫眼鏡みたいな物を取り出し、まずは、勇者のほうを鑑定する。
すると、驚くように、自分の目を疑うように、何回も虫眼鏡を覗き込む。
最終的には道具さえ疑い始める始末だ。
だが、予備のもの3個くらいで確認して間違いがないと確信を持つと、修道女と何やら相談し始めた。
話し終えたのか、修道女が一言も話さずに、優しい笑みで院長部屋に連れていかれ、待機するように命じられた。
その様子を見ていた、ダークエルフはいったい何があったのかと気が気でない。
「さてさて、君はどうかな。」
怪しい見た目の鑑定者とは思えない優しい声でダークエルフの鑑定が始まる。
すると今度も同じように目を疑い始める。
だが、今回違うのは、その鑑定者の顔が真っ青になっていることだ。
また修道女との話し合いになり、院長部屋へと案内された。
院長部屋で再開した二人は安心するために小さく互いに手を振る。
院長がゆっくりと入ってくる。
がちがちに緊張する二人。
これまたゆっくりと腰かけるとふーっと深い息を吐く。
「さて、いい話と悪い話どちらから聞きたいかな?」
女性だけど低めで少し怖い声。
背の高さも相まって子供にとっては恐怖と言えるだろう。
「院長、そんな意地悪な質問しないほうがいいのでは?」
お付きの修道女がやれやれという顔で優しく割り込む。
「すまない、こういうのはどうにも苦手な質でね。」
「代わりに私が話しますよ。」
修道女は誰がれが見ても母性の塊と言わんばかりの品性の持ち主だ。
「いい、結論から言うと、あなたが勇者。あなたが破綻者。」
いきなりの宣言に当惑する2人。
「私が勇者・・・?」
勇者と言われた女の子はぱぁっと明るくなる。
それもそのはず、勇者という役職など世界を探しても初めてで、子の子しかいない。
「破綻者・・・そっかぁ・・・あははははは・・・・。」
ダークエルフの子の何かが壊れた。
「だからって諦めちゃらめちゃダメ!!!!」
修道女が涙ながら優しく、しかし強く抱擁する。
「えっと・・・ハタンシャって何?」
役職に興味のないが故の質問。
それがダークエルフの子にとどめを刺してしまった。
そして破綻者がゆっくりと今までにない雰囲気で気味の悪い遅さで話し出す。
「破綻者っていうのはね・・・全部を台無しにするんだよ。」
「え・・・。」
「違う、違う!!そんなことない!!!」
修道女が喚きたてる。
だが、ダークエルフの子が自分でも驚くくらい破綻者という役職を受け入れたのか、
どんどんと雰囲気が変わっていく。
あんなにキラキラした目は淀み、ピンっと伸びていた背筋は力なく曲がる。
綺麗に整えていた髪もぼさぼさになる。
「ねぇ、修道女、これ以上抱き着いてると・・・殺すよ。」
「ひっ・・・。」
あまりの気迫に修道女が破綻者を離してしまう。
だが、勇者は嘘だという感情でおぼつかない足取りで近づいていく。
「そ、そんなことないよね・・・ほら、大丈夫だよ・・・私、勇者だし・・・。」
とにかく励ましの言葉をひねり出す。
だが、最後の一言が言えない。
あなたのおかげで私は決心できたのだから、と。
「ねぇ、知ってる?」
破綻者が勇者を憎しみ、怒り、恨み、妬み、そんな負の感情すべてが入ったかの目で睨みつける。
「破綻者って、唯一勇者に対抗できる役職なんだよ。」
破綻者。
それはすべてを破綻させる存在。
だが、勇者にとって必要な存在でもある。
行き過ぎた平和。
何事もない世界だよ勇者の存在は必要ない。
だが、絶対悪として存在し、様々な物事を破綻させれば勇者は必然と必要になる。
勇者が出てきたしまったがゆえの弊害。
「これから私とあんたは敵。わかった?」
そういうと足取り軽く修道院の退室していった。
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