第2.5話 琴花side
『彼とは、お友達だけにしておきなさい』
そう、母は言った。彼は将来大企業のご令嬢と結婚することが決まっているのだから、と。だから私はずっとそう心に決めて生きてきた。いや、ずっと我慢して生きてきた。
「洋一くーん!学校行こーよー!」
「おう、ちょっと待っててな」
家が向にあるということもあっていつも一緒に登校していた。学校の話や、お洋服の話。テレビの話など。色々なことを雑談しながら登校する毎日。そんな生活を続けていると、だんだんと自分の心の蓋も取れそうになる。
「琴花!!!」
「へ?…ふああ!」
つい夢中になって、走っていたらおじいさんにぶつかりそうなった。その時、彼の大きな体と、手が私を守ってくれた。胸の衝動が収まらなくて、その瞬間、彼の声がよく聞こえなくなった。私は、もう我慢の限界だった。だったのに…。
「大丈夫だもん!だって…」
「だって?」
「なんでもない…」
『洋一くんに私と付き合って欲しい』、この一言を言うことができない。私はとても辛い。言えないっていうのは、私がビビりだからっていうのもあるけれど、言えないのは、言うことを禁じられているからだ。どうして私は意中の人と恋をすることができないのだろう?それはすごく、悔しいし、不平等だと思う。だけど、私は彼のためを思ってずっと、一生我慢することになるだろう。
「あー、琴花ちゃんと高野宮くんだ!」
「仲良いねー!」
「朝からお熱いねー!」
そう見えるのは分かっている。だけど、どうしても彼のことを意識してしまう。毎日一緒に登校してきた私の、私だけの彼。決して手の届かない、宝物。
「はあ、洋一くん遅いなあ」
「もしかして、忘れちゃってるのかな」
だったら許せない。タピオカを私に奢る刑を処さないと。
「あ、夏目さん。珍しいね、勉強会?」
「うん、まあね」
「もしかして、高野宮くんと?」
「そ、そうだよ」
「羨ましいなあ、高野宮くんって御曹司だからちょっと話しかけずらいけど、顔はいいよね。いいなあ、そんな人が恋人でさ」
「恋人なんかじゃ…ないよ。家が近いってだけで、友達としては、まあまあって感じだけど、でもそんなんじゃ、ないよ」
私は彼のことが、洋一くんが、好きだ。愛してる、結婚したい。だけど、それは叶うことの無い夢で。サンタさんですら叶えられないお願い。そんな事はもう分かっている。なのに、私の心が、胸が、言うことを聞かない。彼を見ると心臓が踊るし、興奮してしまう。家にいる時だって彼のことを考えてしまうし、興奮して自分のことを慰めてしまうときだってある。それぐらいに愛を持っているのに、彼は絶対に振り向かない。
「そういえばさっき、高野宮くん見たよ」
「え、ほんと?」
「うん、廊下を歩いてたから、もう来るんじゃないかな」
「わかった、ありがとう!」
私は図書館を出た。そして、彼、洋一くんを探す。すると、何やら、玄関の前の廊下に一人で立っていた。遅刻したから、少しだけ叱ってやろう。私は声をかけようと、彼の元へと歩みを伸ばした。だったのだが…。
「え、この人…誰?」
知らない女性が、そこにいた。髪は綺麗な黒で、顔も素敵な完璧な女性がそこにいた。
「だいたいなんであなたは洋一くんと一緒にいるんですか!?」
私はもう耐えられなくて、脳死で、質問をした。だけど、帰ってきた答えは…。
「私は
すぐに理解することができた。この人が、洋一くんの、将来のお嫁さんになる人なんだって。だから私はすぐに対応することができた。だけど…。
「あ、あー、私、用事を思い出したんだった!…じ、じゃあね洋一くん」
どうしても悲しくて、寂しくて、走って逃げて来てしまった。ああ、私の初恋はここまでなのか、と。私は図書館に置いてきた忘れ物を取りに行こうと、図書館にやってきた。
「あれ、夏目さん?…高野宮くんはどうしたの?」
「あ、あー、なんか用事が入っちゃって」
「それ、本当?」
「え、どういうこと?」
「なんか、失恋でもしたのかなっていう表情してたから」
図書委員の子は、私の表情だけでそんなことまでわかってしまうのか。と、驚いた。
「正解だよ、すごいね」
「ありがとう、私は美沙子っていうの。普段はこうやって図書館にいるんだ。…それよりさ、聞かせてよ、その話。私でよければ相談に乗るからさ」
私は思いの丈を精一杯喋った。関係、私の気持ち、今あったこと、その全て。美沙子は、全部を、聞いてくれた。
「それは辛いよね、恋しちゃいけない。だなんて。」
「でもさ、それで諦めがつくの?」
「…え?」
「いや、話を聞く限りだとさ、夏目さんがそんなことで諦められるような恋じゃないんじゃないかなって思うんだよね」
「でも…」
「家が、何?親に言われてるからって、何?諦めるのは良くないと思うんだよね。夏目さんが絶対彼を振り向かせてやるぞーって、そう決心して行動したら、高野宮くんは意識してくれるんじゃないかな?」
私は、ハッとした。そんなこと、今まで考えたことがなかった。私と洋一くんは、絶対に繋がることのできない存在同士なんだと。だから、キリのいいところで諦めるべきなんだって。でもそれは、私の逃げで。どうにも足掻こうとしない私の甘えで。だから私はなにか行動に移すべきなんだって。美沙子は、教えてくれた。
「ありがとう、美沙子」
「また、相談しに来てね。いつでも歓迎するからさ」
「あと、もう私たちは友達だから、私のことも、琴花って、呼んでね」
「え、いいの?」
「もちろん!」
「じゃあ…」
「――――またね、琴花ちゃん」
「うん!」
そう言って私は教室へと戻る。もう今までの、マイナス思考な私はいない。いつもの、元気な私。さて、どうやって彼をこの私にメロメロにさせてやろうか。これからがとても楽しみだ。
幼なじみの負けフラグなんか、へし折ってやる。
溶けかけた氷は混ざらない 棚狭 鯖缶 @tanase-subsukee
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。溶けかけた氷は混ざらないの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます