第140話 眼前の空母部隊①

1944年6月6日


 第3戦隊の金剛型戦艦2隻、第5戦隊の重巡5隻、第1水雷戦隊、第42駆逐隊などが、米海軍の重巡、軽巡、駆逐艦と戦っている間、合間を縫うようにして進撃している部隊があった。


 竜胆修介少将指揮下の第8戦隊「青葉」「加古」「衣笠」「古鷹」と、第2水雷戦隊である。


「観測機より入電。『比叡』被雷3。大傾斜」


「観測機より入電。敵重巡4隻、軽巡5隻の撃沈を確認す」


「乱打戦だな。どれくらいの艦艇が生き残っているか見当もつかん」


 次々に旗艦「青葉」の艦橋に入ってくる観測機からの報告電を聞きながら、竜胆は呟いた。


「我が軍はかなりの戦果を挙げているようですが、こっちの被害も酷いものでしょうな」


 竜胆の側に控えていた第8戦隊参謀長鳴瀬翔馬大佐が話しかけ、竜胆が頷いた。


 日本海軍側も第1戦隊の「長門」「陸奥」が既に戦闘不能・航行不能となっている事が判明しており、重巡以下の艦艇も優に10隻以上は撃沈されている。


 このままでは、どちらかが全滅するまで砲戦が続いてしまう。そうなる前に敵空母部隊を捕捉撃滅しなくてはならない――竜胆はそのように考えていた。


「前方に巡2、駆5 敵部隊です!」


「『青葉』『加古』目標敵巡洋艦1番艦。『衣笠』『古鷹』目標敵巡洋艦2番艦。2水戦目標駆逐艦、砲撃始め!」


「艦長より砲術。目標、敵巡洋艦1番艦。砲撃始め!」


 「青葉」艦長伊集院忍大佐が射撃指揮所に下令し、50口径20センチ連装砲3基6門が、左舷側に旋回する。そして、旋回し終わるやいなや、砲声が轟いた。


「『加古』砲撃始めました!」


「『衣笠』砲撃始めました!」


「『古鷹』砲撃始めました!」


「2水戦砲撃始めました!」


 敵巡洋艦、敵駆逐艦も砲撃を開始する。海面の向こう側に連続して火焔が湧き出し、敵弾の飛翔音が多数、8戦隊、2水戦に迫ってくる。


 「青葉」の左舷側に水柱が奔騰し、水中爆発の衝撃が、「青葉」の艦底部を痛めつけ、缶室に損害を与える。


「4番缶室に軽微な浸水!」


「早急に対処しろ。今日、この場に限っては1ノットの速力低下でも命取りになるぞ!」


 伊集院が応急処置を命じ、機関長が即座にそれを了解する。


 先に命中弾を得たのは日本側であった。


 敵1番艦の艦上に閃光が走り、爆炎が躍る。


「砲術より艦長。敵巡洋艦1番艦に命中弾1、次より斉射」


 「青葉」砲術長田村久光中佐が斉射への移行を報せ、主砲弾の装填が終わり、「青葉」が第1斉射を放つ。


 6発の20センチ砲弾が砲塔から音速の1.5倍の初速で発射され、主砲発射時の衝撃が基準排水量9000トンの艦体を揺さぶる。


「『衣笠』被弾。火災発生!」


 「青葉」が敵1番艦に対して命中弾を与え、斉射に移行したが、米軍側も敵2番艦が「衣笠」に対して直撃弾を得た。


 「青葉」の第1斉射弾が敵1番艦に殺到し、高角砲1基を一撃で爆砕し、多量の破片が空中に飛び散る。


 敵1番艦が反撃の射弾を放ち、2発の砲弾が「青葉」の艦体を挟叉する。


「軽巡だな」


 「青葉」を挟み込むようにして奔騰した水柱の長さ、大きさを見た竜胆は呟いた。


 恐らく敵巡洋艦1番艦、2番艦はクリーブランド級あたりの軽巡洋艦であろう。


 敵1番艦が水柱によって覆い隠される。


 「加古」の射弾が着弾したのだ。


 「青葉」は第2斉射を放ち、20秒後に第3斉射、40秒後に第4斉射と矢継ぎ早に砲弾を叩き出す。


 敵1番艦も斉射に移行し、殺到した第1斉射弾の内、1発が「青葉」の艦尾を直撃した。被弾の瞬間、「青葉」の艦体が大きく前のめり、平衡感覚が失われたことによって艦橋内にいた何人かが同時に転倒した。


「舵機室、異常ないか?」


「ありません!」


 伊集院の確認に、航海長が即座に舵機室の無事を報せ、竜胆は胸をなで下ろした。


「敵1番艦に更に命中弾確認! 火災発生!」


 竜胆が双眼鏡を用いて敵1番艦の様子を確認してみると、敵1番艦は艦の後部を中心にして火災が急拡大しつつあった。


 敵1番艦から確認される発射炎も散発的なものになっており、「青葉」の周りに奔騰する水柱の本数も減少傾向になりつつあった。


 そして・・・


「敵1番艦、沈黙!」


 更に3回の斉射を行った後、敵1番艦が完全に航行を停止した。


「目標、敵2番艦!」


 敵1番艦が戦闘・航行不能になったと見た伊集院は、射撃目標を敵2番艦に変更することを命じたが、その必要はなかった。


 「衣笠」「古鷹」の2隻の重巡に砲火を集中された敵2番艦も敵1番艦同様航行を停止しつつあったのだ。


「敵駆逐艦、遁走します!」


 巡洋艦2隻が沈没確実となり、勝ち目がなくなったと見た敵駆逐艦部隊は遁走を開始し、次々に転舵して離脱していった。


「『衣笠』より報告。被弾4発、第3主砲旋回不能」


「まだ十分に戦闘力を残しているな。第8戦隊全艦、隊列を整えろ」


 部隊の被害状況を確認し、竜胆は8戦隊全艦に隊列を整えるよう命じた。同じ頃、2水戦も隊列を立て直していた。


 隊列を直した8戦隊、2水戦は進撃を再開する。


 目標とする敵空母部隊まで後僅かであった・・・






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日米太平洋戦記 太平洋争覇戦 霊凰 @reioudaisyougun

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