エピローグ

王の政



 ノルクス・ヒルグレイブ公爵は全てを白状した。

 もうあらいざらいなんもかんも包み隠さず綺麗さっぱり吐いてくれた。


 仮面の魔法使い改め仮面の暗殺者の手引きで、僕やペアグラント侯爵に嫌がらせ――と言うにはえげつなさすぎる謀略を巡らせていたこと。最終的には王位の簒奪をもくろんでいたこと。などなど。


「よくまああの尊大が服着て歩いてるよーな人が素直に自白しましたね。エンズちゃん様によっぽど怖い目に遭わされたんでしょーかねぇ?」

「無礼なことを申すな! 我は普通のことしかしておらん」


 僕の執務室でローザがエンズをからかって遊んでいる。

 シャルロットは茶を飲みながらそんなふたりのやりとりをにこにこと眺めている。


 無事にこの平和――一触即発だけど概ね平和――な光景を取り戻すことができて安堵している。


 だかといって万事解決というわけでもなかった。

 肝心要の仮面の暗殺者の正体についてヒルグレイブ公爵は全く把握していなかったのだ。それどころか、いつ仮面の暗殺者を自身の配下として雇い入れたかすら曖昧だった。


 このことについてローザの見解は、


「やっぱりいいように操縦されていたとみるべきですかねー。記憶操作までされてるとなると大公閣下からこれ以上有益な情報を引き出すのは難しそーですよねー」

「公爵がこの体たらくとは困ったものじゃな」

「いやまったくエンズちゃん様の言うとーりですよー。アルベルトくん、ヒルグレイブ公爵家は当然お取り潰しにするんですよね?」


 軽い口調でローザは言うけど、眼鏡の向こうの目は全然笑っていない。


「取り潰しはしません」


 僕の返答に宮廷魔術師はびっくりしているみたいだった。

 え、と声を漏らすくらいには意外だったようで、


「今回の件は不祥事なんてレベルじゃないんですよ!? 一族郎党処刑されてもおかしくない――ってその場合は私も首が飛ぶんですかねー。それくらいの問題なのにお咎めなしとするんですか?」


 どういうつもりだ、と言わんばかりの態度で身を乗り出してくる。

 ローザの言ってることはもっともだ。


「まったくお咎めなし、ってわけにはいかないですよね。だからノルクス氏には当主を退いてもらいます」

「……それだけですか?」

「それだけですけど?」


 ノルクス氏に権限を持たせたままにはできない。

 公爵の地位は誰かに就いてもらいたい。


「だって、ヒルグレイブ公爵の係累にはしっかりした人がいるんじゃないですか? ローザだってその中のひとりですよね」

「……あ、はい。どうも。まあ、大公閣下よりマシな人はいるんじゃないですかね」

「だったらその人たちには頑張ってもらいたいです」

「失った信用を取り戻すために奮起する、とお考えです?」

「あはは。そうなるといいですよね」


 僕は無能と言われた第三王子だ。だから、僕より能力のある人を切り捨てるのには抵抗がある。だって、デキる人には王国にいてもらいたいと思うから。そして可能であれば国の発展のために尽くしてもらいたい。そんな風にしたいと思うなら、取り潰しなんて選択肢は採りようがない。


「ふーん。なるほどですねー」


 ローザがしげしげと僕の顔を眺めてくる。


「な、なんです?」

「アルベルトくんってお人好しと思わせて結構モノ考えてますよねー」

「褒めてる?」

「褒めてますよー。ベタ褒めです。ちょっとばかり王の器を感じたりしてます」


 ローザの口にした王の器とは、僕が継承した〈王の器〉ではなくて、僕自身の器量みたいなもののことだろうと思う。


「我が主よ、嬉しそうじゃな?」

「えへへ。王の器だってさ」

「だらしない顔じゃな。眼鏡女は手放しでは褒めておらぬ。ちょっとばかり、と言いおったのだぞ?」


 それでもだ。

 それでも僕は嬉しいし、有難いと思う。


 僕はまだまだ新米の国王だけれど、認めてくれる人や支えてくれる人がいる。

 いつかその期待に応えられる立派な王になりたい――


「失礼致します」


 ノックの返事も待たずにジェラルドが部屋に入ってきた。

 手には封書らしきものを携えて。


「アルベルト陛下、帝国から書状が届きました」

「えっ」


 帝国から?

 驚く僕とは対照的にエンズとローザは悪い笑みを見せた。


「ほう。このタイミングでとはな」

「舐めてくれちゃってますねー」

「中身を確認する前からどうしてキミタチはそんなに好戦的なの……」

「確認などするまでも」

「ないでしょー」

「うーん……」


 僕の王政はまだまだ当分、大変そうだ。




(了)




___________________

ひとまず完結です。最後までお付き合いいただきありがとうございます!

https://kakuyomu.jp/users/kouda-kei/collections/16816700429299978295

本作含め「カクヨムコン7」に応募中の作品をまとめてありますので、よかったら読んでやってください。

今後ともよろしくお願いいたします!

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「〈王の器〉を継承しますか? 〉Y/N 」 〜1000年かけて蓄積されたぶっ壊れ性能のスキルを駆使して新米国王としてがんばります〜 江田・K @kouda-kei

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