オリジナルスキル
何か、なにかないか何かないか?
考えろ。考えろ考えろ。
仮面と睨み合いながら、僕は足りない頭をフル回転させていた。
仮面は
今の僕では対応する手数が足りない。
大量の動屍体。
剣。
魔法。
記憶の片隅に引っかかるものがあった。何か手段があったはず。何だっけ? いつだ? どこで見た? 僕は何を見たんだっけ?
ゾンビ。ゾンビ
エミリアが巻き込まれた、あの村の。
「そうだ!」
僕は思わず声を上げていた。
仮面がほんの僅かに首を傾げた。
そうだった。引っかかっていたのは、ゾンビ禍の報告書にあった犠牲者のひとり――ボリバル男爵の資料だ。血統、略歴、人格、賞罰、その他。様々な記述の中に彼のオリジナル
人の身でできるなら、〈王の器〉で再現できない道理は無いはず。
僕は
今まで試したことはない。ないけどいけるはず。
どうだ?
『アルベルト・リーデルシュタインの
僕の視界の真ん中に〈王の器〉のメッセージが出た!
つまり……上手くいった、ってことだ!!
僕は即座に二刀流スキルを発動。
右手には
「いくぞっ!」
僕は仮面との距離を詰めにかかった。
仮面後退しながら
逃がさない。
動屍体が湧いてくる端から左手で崩壊させていく。仮面に余裕を与えたら駄目だ。一気に踏み込む。仮面はバックステップから一転、こちらに突撃。僕のほんの少し手前で反転して背後を取ろうとする。無茶苦茶トリッキーかつ洗練された
「はっ!」
仮面の背後に回る動きに合わせて僕は逆回転し剣を振るった。ちょうど鉢合わせするような形でナイフと剣が激突。反撃を予期していなかった仮面のナイフを弾き飛ばすことに成功した。
体勢を崩した仮面に追撃。魔法銀の剣を両手で握った。刀身に神聖魔法の輝きが電波する。ボリバル男爵の魔法剣。こんな感じのはず! たぶん!!
「
神聖属性を付与した遠距離斬撃を仮面は避け切れない。顔面に直撃。被弾した仮面はのけぞった。「楽」の表情の仮面が縦真っ二つに割れてカラン、と音を立てて半分が床に落ちる。
もう半分を手で押さえて、仮面は舌打ちをした。空いた手が素早く魔法陣を展開する。召喚円でも呪いでもない魔法陣。〈王の器〉がアレを空間転移の魔法陣だと教えてくれる。
逃げるつもりだ。
その時だった。
「そう容易く
すっかり聞きなれた幼くも凛とした声が、真上から降って来た。
エンズだ。瞬間移動じみた動きで出現した聖魔の神剣は、万物を断ち斬るその手刀で仮面の左腕の半ばから先を裁断した。仮面は腕を落とされても魔法陣を維持。凄い集中力だ。
「……仮面と腕の借りはいずれ返させてもらう」
「フン、捨て台詞としては今一つじゃな。次は必ず殺してやるから覚悟しておけ」
半分に割れた仮面と腕を残して、魔法陣は発動した。仮面の魔法使い――いや、暗殺者かな――の姿は掻き消えた。
「ふうっ」
僕は大きく息を吐いた。疲れた……。
最後はエンズに手助けしてもらったし、結局仮面は逃がしてしまったけど。
「まずまず、かなぁ」
「なぁーにが、まずまずじゃ!」
うわ、聞かれてた!
「なっとらん。なっとらんなぁ、我が主よ。あの程度の暗殺者にあたふたしおってからに」
「……どこから見てたの?」
「腹を抉られる手前あたりじゃな」
「ええぇー……」
結構前から見てたんじゃないか。もっとはやく助けに入ってくれればよかったのに。僕の言いたいことを察したエンズはニヤリ、と笑って、
「あの程度で死にはせんのは知っておるからな。我が主もそろそろすてっぷあっぷの頃合いかと思ってな。実際、最後はいくらかマシになっておったわけじゃし」
「えへへ」
エンズに褒められると悪い気はしない。
「じゃが調子に乗るなよ。黒幕を取り逃がしてしまったんじゃからな!」
「えっ? ヒルグレイブ公爵を捕えられなかったの?」
「ちーがーう! 黒幕はあの仮面じゃ。帝国の手先にバカ公爵がいいように利用されておっただけじゃろ。それくらいは理解せんか!」
「アッハイ。すみません」
エンズはやれやれと肩を竦め、それから小さく微笑んだ。
「まあそれでも、ひとまずこれにて一件落着としておいてやろうかの」
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